2019-03-30

サイレンス HUSH


2016年制作のアメリカ映画。日本劇場未公開でNetflixでのみ配信されているようだ。聾唖の女性が殺人鬼に襲われるというサスペンス映画では時々あるパターンながらじっくり観せてくれる秀作だ。

ストーリー
女性作家のマディーは山奥のコテージで一人暮らしをしている。彼女は13歳の時病気で聴覚を失い話すことはできない。近所にサラという女性が恋人のジョンと一緒に住んでいてサラとマディーは手話で会話を交わす友人だ。またマディーは読唇術を会得している。

ある夜、サラが血塗れでマディーの家に助けを求めて来る。玄関の窓を叩いても彼女は気付かない。突然背後から白いマスクを付けた男が襲いかかりサラはナイフで刺殺されてしまう。マスクの男はサラの遺体を移動させ改めてマディーの様子を観察する。

男は彼女に聴覚障害があることに気付き家の中に侵入する。しかし背後に立ちながらも危害は加えずマディーの携帯電話で彼女の後ろ姿を撮り彼女のPCへ転送した。家の中に侵入者がいることをわざと気付かせるためだ。そのまま男は屋外に出る。

マディーはPCを見て施錠をし警戒するが男は静かに家の周りを歩いて挑発する。次に屋外の電源BOXを破壊し自動車のタイヤをパンクさせて連絡と逃走手段を奪う。一計を案じたマディーは「顔を見ていない。全て忘れる。」と窓に口紅でメッセージを書く。

しかし男はマスクを脱ぎ捨て素顔を見せた。逃がす気はない、恐怖を味あわせて殺すと唇を動かす男。マディは脱出するために闘う決意を固め、あらゆる手を駆使して脱出を試みるのだが今一歩で阻止され家に戻ることの繰り返しだ。

膠着状態の最中ジョンが恋人のサラを探しに訪れるが、男は保安官を装い彼のスキを見て殺害してしまう。再度脱出を試みたマディーだが男の放ったボウガンの矢が足に刺さり痛みと出血で徐々に体力を失っていく。彼女はもはや諦めるしかないのか。

レビュー
この作品は激しい動きやショック演出は控え、滑らかなカメラワークを駆使した映像表現や腰の座ったストーリー展開によって落ち着いた雰囲気が漂う不思議なサスペンスだ。ヒロインはパニックに陥ることなく比較的冷静だし殺人鬼自体の行動がスローなのだ。

この殺人鬼、明らかに強盗やレイプ魔とは一線を画すサイコパスだが、窓を割れば即終了という状況なのにやたらと引っ張る。不用意にマディーの反撃を受けたりジョンに逆襲されたりする割には焦らないヤツで、イライラする人は多いかも知れない。

しかし、作品全般に渡って描写が丁寧でマディーが後半反撃に用いる武器(小道具)は全て開始早々から画面に写っているし、彼女が感じる世界は完全な無音ではなく水中に潜った時のような音が微かに響いている。

また、マディーが小説のプロットを考える時頭の中に響く女性の声が脱出のタイミングをアドバイスしたり、とにかく描写が細かく繊細なのだ。そして最後の対決時に描かれるバスルームでのあるシーンは「羊たちの沈黙」を連想させて思わずニヤリとした。

マディー役はケイト・シーゲル。美人タイプではないが落ち着いた雰囲気が良い。例えが変だが外見だけならアーシア・アルジェントを思いっきり地味にした感じだろうか。因みに本作品の監督のマイク・フラナガンとケイト・シーゲルは夫婦である。

もしあなたがスピーディな展開と派手な演出を好まれるならこれはお勧めできない作品だろう。しかし決して緊迫感がないダレた作品ではないと思うし、凝った映像と演出をじっくりと楽しめる方にはもって来いの作品ではないかと思う。