2019-04-14

ユージュアル・ネイバー


2013年制作のアメリカ映画。隣人の隠された秘密という設定はサスペンス映画で割と良くあるパターンだが、そこに医療・虐待・盲愛を絡めた質の高い作品だ。

ストーリー
両親を亡くした少女マリアンはニューヨーク郊外に住む祖父母の家に引き取られる。到着早々近所を散策しているとすぐ近所に一軒家があり、窓の中を覗いて見たら彼女と同世代の少年がベッドに横たわっていた。

少年の名はアンディで車椅子がないと歩行ができない重病を患っていた。元看護師の父親リチャードと医師の母親キャサリンと3人で暮らしている。遠慮の無いマリアンは窓を開けて中に入りすぐにアンディと打ち解けて友達になる。

しかしアンディの母キャサリンは何故か迷惑そうにマリアンを追い返す。彼女はめげずにその後もアンディの部屋の窓の外に生えたトウモロコシをカラスから守るため案山子を作りに来たり、部屋で一緒に野球のTVゲームをしたり。

そのことを知ったキャサリンは激怒しマリアンの祖父母に抗議する。リチャードは息子にも友達は必要だとキャサリンを説得するが彼女は頑として聞き入れない。夫婦間には妻優位の力関係がありリチャードの表情からは諦念が見て取れる。

ある日禁を破ってアンディの部屋を訪ねたマリアンは、野球がしたいという彼の望みを叶えようと外へ連れ出してキャッチボールを始める。ところが母親がもうすぐ帰ると電話して来たため慌ててアンディを部屋に戻すが自分は逃げ遅れてしまう。

地下室へ続く階段に身を潜めたマリアンが地下室に灯った明かりを頼りに中へ入ると、何とそこには医療用のベッドがあり人工呼吸器を付けた少年が横たわっていた。周りには電子医療機器が並び少年は死んだように眠っている。

そして彼女はアンディの名が記された物とは別にジェイソン・キマニックと名が書かれたレントゲン写真を発見する。地下室に夫婦が降りて来たため慌てて窓を開け外に逃げ出したマリアン。果たしてあの少年は誰なのか。

レビュー
ストーリーで書いた部分はほぼ中盤あたりまでとなる。なので割と早い時点でこの怪しげな夫婦の秘密は分かってしまう。つまり地下室に隠した少年のことだ。しかし、この少年の正体と息子との関係は終盤になって明らかにされ驚愕する。

母親は息子の重病を治そうと元看護師の夫に指示して違法でリスクの高い薬剤を入手していた。夫は副作用で逆に身体が弱っていると薬剤の使用を止めさせようとするが妻は納得しない。その据わった目付きには既に偏執的で病的な兆候が現れている。

そして、アンディがキャッチボールをしたことに気付いた母親は突如狂乱の母へと変貌する。外のトウモロコシを薙ぎ倒し窓を釘で打ち付け息子のゲームや遊具を捨ててしまう。そのうえ部屋の壁を真っ白に塗り直す始末だ。もうヒステリー状態で手が付けられない。

彼女が何故こんな状態になるのか観ていて異様に感じる。逆に父親は息子をいたわり優しい声を掛けてやる。しかしその顔には何とも言えない苦悩が見え隠れするのだ。彼の苦しみは一体どこから来るのか・・・それは謎が全て明らかになると分かる仕掛けになっている。

全ての謎が解けこの一家が悲劇的な結末を迎えた時、父親の苦悩がひしひしと伝わって来て胸が苦しくなった。しかし母親に対しては我が子を愛する故の行為だとしてもあまりに非道い話で許せる気持ちにはなれなかった。ラストシーンが唯一の救いだったが。

父親役はマイケル・シャノン。素晴らしいの一語に尽きる名優だと思う。狂乱の母親役はサマンサ・モートン。もう「ミザリー」のキャシー・ベイツも真っ青である。マリアン役はナターシャ・カリス。どこかで観たと思ったら「ポゼッション」に出ていた。

それから我々の年代からすると懐かしいのはマリアンの祖父を演じたピーター・フォンダだ。優しくて孫娘の背中をソッと押してくれる素晴らしいグランパだ。そう言えば娘のブリジット・フォンダは最近見ないが引退されたのかな。

この作品はサスペンスとしてもヒューマン・ドラマとしても非常にバランス良く出来ていて欠点が見当たらない。最近見たサスペンスの中でも出色の仕上がりだと思う。特にマイケル・シャノンの抑えた演技が印象的なお勧めの作品だ。