2019-04-21

ザ・インシデント


2011年制作のアメリカ・フランス・ベルギー合作映画。精神科保養施設で起きた暴動からのサバイバルを描いたサスペンスだが一筋縄ではいかない問題作だ。

ストーリー
ジョージは友達のマックス、リッキーと一緒にサンズ精神科保養施設のキッチンで働いている。年長の調理人ウィリアムと計4人で入所者の食事を用意しているが、キッチンのガラス越しに配膳も行っていた。またジョージにはリンという彼女がいる。

ここは保養施設といっても法を犯した精神障害者を収容している場所なので警備が厳しく、看護師を除いて5人の警備員が常駐している。銃器は所持していないが警棒やスタンガンは携行しており、特に警備主任のJBは入所者には厳しく恐い存在だ。

ある夜、豪雨のため突然施設が停電してしまい非常灯だけが頼りの状況に。ジョージとウィリアムは食堂にいる数人の入所者を個室に戻すようJBに頼まれる。役目を終えて戻ると食堂の中は荒らされていて入所者の1人が彼らに襲いかかって来た。

キッチンに逃げ込んだ2人は食料庫に隠れていたマックス、リッキーと合流する。しばらくすると入所者達が大人数でキッチンなだれ込んで来たため、ジョージ、ウィリアム、マックスはスキを見て逃げるがリッキーは自ら食料庫に立て籠もる。

この頃には警備員や看護師は殆ど殺されていて、廊下にはJBの首無し死体が転がっていた。3人は電話のある警備室に向かい警察への連絡に成功する。しかしリッキーが警備室前の廊下で刺殺されマックスも鼻を噛み千切られる重傷を負ってしまう。

ついにジョージが捕らえられ生きたままマックスが焼き殺される場面を目の当たりにする羽目に。そしてこの後彼を待つ過酷な運命とは・・・。

レビュー
ストーリーはかなり端折って書いたので細かい部分は省いている。それはさておき入所者達が一気に反乱を起こした背景には食事の際服用する薬を皆が飲まなかったという理由があった。この指示を出したのがグリーンという名の入所者らしい。

つまり彼らは薬剤を飲めばおとなしいが服用しないと本来の凶暴性があらわになる訳だ。まるで停電を予見したように準備を整えたグリーンは一体何者なのか。この点がこの作品の肝だろうと思うし解釈が難しい部分になっている。

実はグリーンの表情や行動に対して敏感に反応するのはジョージだけなのだ。JBもウィリアムもマックスも全く気にしていない。グリーンが他の入所者に耳打ちし薬を吐き出させていたのを見たのもジョージだけで誰も信じない。

もう一つ加えるとキッチンと食堂はガラスで仕切られているのだが、料理を取りに来たグリーンの顔にガラスに写ったジョージの顔が重なって見えるカットがある。このイメージが意図するものは想像できるが言葉で説明できないのがもどかしい。

極めつけは捕らえられ縛られたジョージの前に現れたグリーンがジョージの歯を探って何かを確認し、ついに自分の指を彼の前で自ら噛み切る不可解なシーンだ。また警察により開放されたジョージがキッチンの外で見た硬直した死体の正体とは?。

ちょっとネタバレになるが中盤からラストシーンに繋がる一連の流れで、正常な人間の精神がリミットを超えて破綻する過程が理屈抜きで感覚的に表現されているのかも知れない。だから敢えて現実と幻覚との境目を曖昧にしているのだろうと思う。

さてこの作品サスペンスのようだがホラー要素が強く特に残酷描写は多い方だ。スタンガンを眼球に当てて放電、首なし死体、眼球潰し、鼻のない顔、コンロで焼かれて火ダルマになる頭部、肉屋が届けた気味悪い内臓等グロ系がメインだろうか。

突っ込みどころも多々あって、停電で電気が供給されず予備電源も可動しない状況で警備員達がやけに落ち着いている。互いにトランシーバーで連絡を取り合ったりもしないのだ。当然外部に緊急連絡もしていない。呑気なものである。

ラストでジョージの側に寄り添うリンの口がアップになるが、その口はグリーンが自らの指を噛み切った口と重なる。ジョージのキリスト然とした風貌といい宗教的な意味合いがあるのかも知れないが、何かが心を掴んで離さない不思議な作品だった。