2019-08-18
オブジェクト
2014年制作のアメリカ映画。正統派のモンスター・パニック映画でありながら人間ドラマとしても十分評価に値する佳作だ。
ストーリー
アメリカ北部にある田舎町メイデンウッズ。町の保安官ポールは半年前に次男のティムを事故で亡くし精神的に立ち直れずにいた。妻のスーザン、長男のアダムとは別居している。彼の相棒で副保安官のドニーはニューヨークからこの地に転属して来たばかり。まだ若いが頼りになる男だ。
ある日ロンの牧場の馬1頭が行方不明になる。翌日には町の至る所に動物の物とは思えない不明瞭な足跡が無数に残っていた。その何者かは2足歩行で歩幅はそれ程広くないが短時間で広範囲に移動している。また森の木には鋭い爪で抉ったような跡が付いていて突然足跡が無くなるなど不可解な点があった。
ポールは人間の仕業と断定するが町から犬が姿を消し森から鹿が居なくなり鳥の大群が移動するなどの怪現象が続く。住人は古くから伝わる「森には悪魔が棲みついている」という言い伝えを口にし始めたがポールは信じなかった。だがロンの牧場が再度襲われつま先がクッキリと3つに分かれた足跡が見つかる。
自然界には2足歩行でつま先が3つに分かれた動物は存在しないらしい。奇しくも先住民に古くから伝わる民話の悪魔はつま先が3つに分かれている。そして3人組の猟師が森で襲われ2人の死体が木の上で発見されるに至り、ポールは森に棲む未知の生物の存在とその危険性を認めざるを得なくなった。
彼がメイデンウッズより北部の町タナーの保安官に問い合わせたところ、伐採事業が行われていた近くの森林で2週間前に作業員が行方不明になったらしい。その後タナーで家畜の被害が発生し動物が姿を消した。つまり棲家の森を失った生物が森を求めて南下しメイデンウッズまで来たのだ。
その頃運悪く町めがけて巨大な暴風雨が接近しつつあった。町を出て避難した住民もいるがまだ残っている人達がいる。ポールとドニーは手分けして彼らを教会に集めるが、生物が入り口の扉を壊して侵入して来ようとする。住民を地下のシェルターに匿い2人は謎の生物に銃で立ち向かうが・・・。
レビュー
この作品、一応モンスターパニック物と言って良いと思うが肝心のモンスターが殆ど映らない。終盤の教会での対決時までは影が横切ったり後ろ姿が少し見えるだけだ。敢えて姿は見せず足跡などの痕跡や微かな唸り声、気配で恐怖心を煽る演出を心掛けているのが分かる。
早くモンスターの姿が観たいのが人情だが、この演出は結果的に成功していると思う。この作品は保安官ポールの苦悩をもう1つのテーマとしてじっくり描き、並行してモンスターが迫ってくる恐怖をジワジワと体感させる。双方のテンポが上手く合っているから違和感が無い。
ポールは普段周囲には見せないにようにしているが、目の前に居ながら息子を助けられなかった自分を責め続け死んだ息子の幻まで見える程傷付いているのが本当の姿だ。1人の時その悲哀はオーラの如く全身から滲み出ている。そんな夫に妻のスーザンは耐えきれず家を出る。
また副保安官のドニーもニューヨークで撃たれ相棒を亡くした経験がある。ニューヨークを離れ田舎町に転属して来たのはそのためだ。ポールとドニーは心に傷を持ち「自分を責めないで」と言われる辛さを味わって来た仲間だった。彼らの心の交流も作品の魅力になっている。
モンスターとの対決を通してポールとスーザンの間に以前の信頼関係が蘇って来る点も観ていて喜ばしかった。長男アダムが両親を見守り元に戻って欲しいと願う姿までキッチリと描かれている所も好印象だ。家族が元通りになりモンスターも倒せて万々歳と思っていたのだが。
ラストのワンショットはかなりの唐突感がありそれまでのテンポを覆す物だ。初見時には違和感があったが良く考えると作品の前半部分にしっかりとエンディングを想像させるヒントが提示されている。その点はフェアだし理屈の上では納得できた。しかし感情的には微妙だ。
さてモンスターの造形だが足元のアップ以外は全てCGだろう。このモンスターも「ザ・モンスター」と同じで何故かゴリラ体型で顔がゴジラに似ている。そして弱い。手応えが無さ過ぎだ。保安官達の武器はアサルトライフル、ショットガン、拳銃だが数発しか当たっていない。
しかしモンスターが姿を隠しながらゆっくり迫って来る中で、拳銃のホルスターのホックを外す音にハラハラドキドキさせる演出などは上手い。つまりドンパチとは正反対の出会い頭一発勝負的緊張感を楽しむ作品であることは間違いない。そう思って観れば十分に面白い。
ポール役はケヴィン・デュランド。もし主役が違う俳優だったら陳腐なB級作品で終わった可能性が高い。それだけ彼の演技・存在感は凄かった。ドニー役はルーカス・ハース、スーザン役はビアンカ・カジリック。2人共ケヴィンとの相性が良くベスト・キャストだろう。
作品のお勧め度だが、せっかちな人、モンスターの大暴れが観たい人はNGだが、きめ細かな演出とゆったりした流れ、ドラマ部分とモンスター部分のバランスの良さなどが気に入る方はきっといると思う。全体に青みがかった映像が不思議と心に残るし何故か愛着が湧く作品だ。
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