2018-05-13

ジェーン・ドウの解剖


2016年製作のアメリカ映画。この作品は美しい身元不明の女性遺体「ジェーン・ドウ」にまつわる怪奇談だ。

ストーリー
3代続く由緒ある遺体安置所の2代目で父親のトミーは検死官、息子のオースティンは助手をしている。トミーは2年前に妻を亡くし家族は息子と猫のスタンリーだけ。オースティンにはエマという名のガールフレンドがいる。

ある日一家4人が惨殺された家の地下室で半分地中に埋まった女性の全裸遺体が発見される。家に侵入の形跡はなく家人は外に逃げようとして殺されたらしい・・・。この遺体、通称「ジェーン・ドウ」はトミーの元に運ばれ検死が始まった。

彼女の遺体に外傷は全くなく非常に美しい状態。しかし検死を進めて行くうちに手足の骨折、肺の火傷、内臓の損傷などが見つかり、胃の中からは花や魔術で使うような模様が描かれた布が出てくる。親子はその不可解な状況に戸惑うばかりだ。

そしてラジオの不調をきっかけに様々な怪現象が起こり始める。猫のスタンリーが通風口内で大怪我をして死に、外は突然の暴風雨となり、検死室の照明が割れて真っ暗になる。外へ脱出を試みる二人だが家の出口が倒木で塞がれ出ることができない。

その間に検死室に安置されていた別の3遺体が動き出しトミーは浴室で襲われ大怪我をする。その上トミーは訪ねてきたエマを誤って斧で切り付け殺害してしまう。混乱の中「ジェーン・ドウ」の秘密を暴くことで事態を収束させようと試みる二人だが・・・。

レビュー
作品の舞台は殆ど遺体安置所の中に限定されストーリーの中心人物はトミーとオースティンの二人、そして「ジェーン・ドウ」。見所は美しい遺体の解剖シーンであることは言うまでもない。白い肌と赤黒い血肉の対比が倒錯美を生み出している。

解剖が進むにつれて明らかになって行く遺体の異様さ。激しい拷問を受けている筈なのに外側には傷一つないのだ。目の色は濁った灰色、死斑も死後硬直の跡もない。胸部を切開すると血が流れる始末。彼女は一体いつ死んだのか。

手掛かりが一つまた一つと見つかり彼女の謎に近づいて行く。このあたりの緊張感ある演出は上手い。中盤から彼女の力による3遺体の襲撃とそれに対抗する親子の描写が続くが、遺体は彼らを無秩序に襲っている感じでやや必然性に欠ける。

終盤パズルを組み合わせるようにしてジェーンの謎が解き明かされるが同時に悲劇的な結末へと一気になだれ込んでいく。これは日本の怪談に近い結末かも知れない。そしてその後の締めくくり方はホラーの定石と言って良いだろう。

中盤からの展開はもう少しテンポと説得力があればスピード感や緊迫感が持続したのではないかと思う。しかし廊下の角に設置された凸面鏡や遺体の足首につけた鈴とその「チリン」と言う音、ラジオから流れる少女の不思議な歌などの演出は秀逸だった。

俳優はトミー役がブライアン・コックス、オースティン役がエミール・ハーシュ。そしてジェーン役はオルウェン・ケリー。全編裸なので当然の美ボディだ。前歯がすきっ歯なのが印象的ですぐ身近にいる女性っぽい生々しさがあった。

さてこの作品の結末だがある意味凄く恐いと思った。最初から悪であった訳じゃなく凄まじい拷問の末悪になった・・・人間の残酷さ・醜さを如実に表しているようだ。意外と深い思想と凝った演出が素晴らしい秀作ホラーだ。