2018-01-07

手紙は憶えている


2015年製作のカナダ・ドイツ合作映画。ホロコースト物の範疇に入るかも知れないがかなり異色のサスペンス映画だ。

ストーリー
90歳のゼヴは老人介護施設で暮らしていて一週間前に妻のルースを亡くしたばかり。元々の認知症が妻の死後進行してしまい目覚めるとルースを探してしまう。

施設の仲間マックスはゼヴと同じユダヤ人で二人はアウシュヴィッツ収容所の生き残りだった。そして当時ナチのオットー・ヴァリッシュという男に家族を皆殺しにされたのだ。

マックスはオットーがルディ・コランダーと名前を変えてアメリカに渡り今も生存している事を調べ上げる。同姓同名の人物は4人。身体の不自由なマックスはゼヴに復讐を果たすよう依頼する。

こうしてマックスから細かい指示を書いた手紙を預かりゼヴは復讐の旅に出る。忘れては手紙を読み返し徐々にオットーに迫るゼヴだが辿り着いた先には衝撃の事実が待っていた。

レビュー
ゼヴを演じるのは今年88歳のクリストファー・プラマー。もはやいぶし銀と言って良い素晴らしい演技を見せてくれる。映画の殆どはこの老人がアメリカをバスやタクシーで旅をするロード・ムービーだ。

この作品を予備知識なしで観ると彼が復讐を果たして家族の仇を討つことができるのか・・・その結果を知りたい。つまり人間ドラマとして鑑賞してしまう。ところが監督のアトム・エゴヤンは一筋縄ではいかない人物だった。

ラストのほんの5分で人間ドラマがサスペンスに豹変し唖然としているうちにエンドクレジットが流れるのだ。本当に油断している隙に一本取られたという表現がピッタリだ。そして認知症がもたらした悲劇に深い哀しみの余韻が残った。

これからこの作品を鑑賞する方は深読みすることなくこの老人の苦節の旅をじっくり観て欲しい。クリストファー・プラマーの名演はそれに値する味わい深いものだし結末を知った後の感慨はより深いものになると思う。