2017-05-23

マザーハウス 恐怖の使者


2013年製作のベネズエラ映画。心霊現象や悪魔憑きなどのオカルト的要素の強いホラー作品を想像したが予想外の展開に息を呑む奥の深い感動作だ。

ストーリー
専業主婦のドゥルセは定職の無い夫ファン=ホセと二人の息子、レオポルド(10才位)・ロドリゴ(8才位)の4人でかなり昔に建てられた古い屋敷に住んでる。夫婦の関係は良いとは言えずドゥルセが夫を冷たく突き放している感じだ。

1981年11月初旬の夜11時11分、ドゥルセの部屋の鍵が掛かったドアを家族以外の何者かがノブをガタガタと動かして開けようとする。何故か扉が開きドアチェーンの隙間から手が伸びて来るがドゥルセが反撃すると相手は姿を消してしまう。

翌日息子のレオポルドがドゥルセに前夜の同時刻に彼の前に女が現れ「ロドリゴと3日間遊んではいけない」と告げて「母親に渡せ」とメモをくれたことを話す。彼女がそのメモを読むと「フアン=ホセがレオポルドを殺す」と書いてあった。

ところがレオポルドは女の忠告を無視しロドリゴや仲間達と野球をしてしまう。試合中にレオポルドの打球がロドリゴの頭部を直撃しロドリゴは不運にも命を落としてしまった。ロドリゴの葬儀は家族と友達が参列し11月11日に執り行なわれた。

葬儀の日の夜フアンはドゥルセが隠し持っていた元恋人からの手紙を偶然見つけ、レオポルドはドゥルセと元恋人との間にできた子であることを知ってしまう。ロドリゴを失い妻に裏切られた彼の悲しみはレオポルドに対する憎しみへと凝固する。

レオポルドをナイフで刺し殺そうとするフアンをドゥルセは必死で止めるが殴られて気を失ってしまう。意識を取り戻した彼女は肩口に深々とナイフが刺さり絶命している夫の姿を発見する。そしてレオポルドは地下室の扉の奥に消え行方不明になってしまった。

ドゥルセは夫と息子の殺人容疑で逮捕され終身刑を言い渡された。30年後仮釈放となった彼女は監視付きで元の屋敷に住むことを許可される。また教区の司祭が彼女の話を聞きに定期的に訪れるのだが、司祭はドゥルセに同情的で懸命に力づけてくれるのだった。

そんな時屋敷にナイフを持った男の老人の姿が現れるようになりドゥルセは怯え苦しむ。ある日ドゥルセの部屋が荒らされ鏡に血文字で「11 11 11 11 11」の文字が描かれていた。果たしてこの数字が意味するものは何なのか・・・。

ドゥルセの話を聞いた司教は図書館に出向き屋敷に関する調査を始める。屋敷はイギリスの建築家が100年前に建てたもので建築家の家族全員が行方不明になっていた。そしてその後も数十年の内に二家族が同様に屋敷から忽然と姿を消していたのだった。

司祭は鏡に書かれた文字から2011年11月11日11時11分に屋敷で何か起こり、それが30年前の謎を解く鍵になると確信する。ついに運命の時刻が訪れるがドゥルセがこれから体験する出来事は誰にも予測できない超常的なものだった。

レビュー
★ネタバレを含みますのでご注意ください!
ストーリーはできるだけ時系列通りになるように書いた。映画はフアンに殴られて気を失ったドゥルセが目覚め夫の死体を発見しレオポルドの姿を見失うシーンから始まる。そして彼女が収監され30年が経過して屋敷に戻るシーンへと続く。

屋敷に戻ったドゥルセが30年前の記憶を辿るように当時の家族の様子が描かれていくが、現在の彼女の生活と過去の出来事が交互に描写されるという演出方法が取られている。現在と過去がパズルのピースのようで集中して観ないと混乱してしまう。

この作品の肝は霊のように見えるのは実は生身の人間でしかも時間を超えてその姿を現すという点だ。つまりこの屋敷には時空を超える回廊が存在し、屋敷の住人は家が望む時間へ本人の意思に関係無く瞬間移動してしまうのだ。しかし家が持つこの力は邪悪な物ではなく屋敷の住人に試しの場を与えているように思える。

★ここからもろネタバレ!怪現象の謎解き
2011年11月11日11時11分にドゥルセは時を越えて30年前の11月初旬の11時11分に戻る。当時の自分にこれから起こる悲劇を知らせるつもりでドゥルセの部屋の扉の鍵を開けチェーンを外そうとするが反撃されてその場から逃げる。

次にドゥルセはレオポルドに会いに行く。突然目の前に現れた老女にレオポルドは驚くが顔と声から彼女が未来の母親であると知る。ドゥルセは彼にロドリゴと3日間だけ遊ばないよう忠告し当時の自分に宛てたメモを手渡したのだ。

一旦30年後に戻ったドゥルセの前にナイフを持った男の老人が現れる。老人は彼女の目の前に立ち自分はあなたの息子のレオポルドで2071年からやって来たと告げるのだった。ドゥルセは顔と声から彼が確かに息子であると知り泣きながら抱擁する。

レオポルドはドゥルセにナイフを渡し30年前の11月11日に戻ってフアンを倒し当時の自分を今の時代に連れ帰って欲しいと頼む。なぜなら自分は12才の時にその頃の医療技術では治せない難病を発症してしまうが、今の時代なら治療が可能だからだと説明をする。

ドゥルセが行かなければレオポルドはフアンに殺されてしまう。彼女に選択の余地は無く30年前に戻って間一髪レオポルドの命を救った。彼を連れ帰ることをためらうドゥルセだったがこの時代に残せば息子は病気で死んでしまう。結局彼女はレオポルドを連れて30年後の世界へと戻るのだった。

作品に対する感想だが時空を超えるというSF的要素を神秘的で謎に満ちた屋敷の力として科学から切り離し、ファンタジーに昇華させたアレハンドロ・イダルゴ監督の手腕は素晴らしいと思う。現在と過去を行き来する際の法則に縛られることなく、この作品のテーマである母親と子の絆を堂々と描ききった力量に感動せずにはいられない。

さて現在へ連れてこられたレオポルドはどうなったのだろうか?。ドゥルセは司祭に事のいきさつを説明しレオポルドに会わせるのだが、そこで初めて司祭の素性が分かり驚きと共に目頭が熱くなる見事なラストが用意されている。レオポルドが病気と立ち向かう環境が整ったことも最後に現れる人物が暗示しており文句の無い締めくくりとなった。

近年観た映画の中でも個人的には上位に入る感動の傑作なのでぜひ一度観て欲しい。ただしジャケットに書かれているようなオカルトホラーではないので、そっち方面を期待して観ると肩透かしを喰らうかもしれない。またこの作品に対してタイムパラドックスがどうしたとか、辻褄が合わないなどの突っ込みを入れるのは無粋だろう。素直に感動の涙を流せば良いと思う。