2010年製作のドイツ映画。ジャケット画から想像する内容とは全く違うかなり風変わりな作品だ。
ストーリー
サラリーマン風の男が目覚めるとそこはコンクリートの壁に囲まれた10畳ほどの部屋だった。出口はハンドルがついた頑丈な鋼鉄製の扉だけ。しかもハンドルは回してもビクともしない。他にはネズミの死骸と鍵がかかった2人分のロッカーがあるだけだ。
ロッカーの鍵を見つけた男が扉を開けると中にバーナーと酸素ボンベ、鉄製の金槌と楔が入っていた。早速バーナーで出口の扉に穴を開けようとするが全く効果がない。仕方なく金槌と楔を使ってコンクリートの壁に穴を開けようと汗にまみれて悪戦苦闘する。
やっと辿り着いた場所は元いた場所と同じ造りの部屋。そして何故か黒人の若い女が棺に横たわっている。目を覚ました女も男と同じで何故自分がここにいるのか分からない。最初は互いに警戒しあう2人だがやがて協力して脱出の方法を必死で探っていく。
そして進んだ先には3番目の部屋がありそこには墓石と2人が入るのに充分な墓穴があった。体力の限界で死が近い2人にとってここは終点なのか?堅く閉ざされた鋼鉄の扉は果たして開くのか?・・・絶望の淵に立たされた2人が最期に見たのは驚くべき光景だった。
レビュー
この作品、ジャケットに騙されて「SAW」や「CUBE」のような内容を期待するとカウンターパンチを喰らう。そして間違いなく怒りが込み上げるだろう。つまり現実的な解決を求めて観てはいけない作品なのだ。シチュエーション・スリラーの格好をしたかなり荒唐無稽なファンタジーだと思って欲しい。
1番目の部屋はかなり現実的な状況なのだが2番目以降は急に非現実的なものに変わる。若い黒人女性はアフリカ人で英語は全く話せない。おそらく彼女の部族のものと思われる民族衣装を着ている。なぜそんな人物を拉致して監禁したのか?この設定は既に実際にはありえない現実離れしたものだ。
★ここからネタばれあります!
鑑賞後に随分悩んだが全ての状況を現実だと考えると辻褄が合わなくなる。最初の部屋は現実でそれ以降は男の夢なのか?それとも最初の部屋で男は死に霊界に足を踏み入れたのか?結論を言うと最初から男は死んでいたのが正解だと思う。
死後に彼の前に現れたのは天国に行くか地獄に落ちるか見極める「試しの場」なのではないか。最初男は自己中心的で傲慢な人間に見えるが、女と出会ってから彼本来の優しさや思いやりの心が表に出てきて随分と印象が変わる。3番目の部屋では「俺が死んだら俺の肉を食べて君は生き残れ」と女に言うのだ。
この究極の自己犠牲が彼の行く先を決めた。開いた最期の扉の先には想像通りの世界が開けていたのだ。彼だけではなく彼女にも同じ事が言える。神を信じる彼女は「何故私に苦しみを与えるの」と神に問いかけるが最期には全てを受け入れ力尽きる寸前の男の心身を癒そうとするのだ。
監督はスティーヴン・マヌエルという人だがかなりの自己満足に浸ってこの作品を撮りあげたと思う。果たしてシチュエーション・スリラーの衣を纏う必要があったのか疑問だが稀に見る珍品になっていることは確かだ。あまりに不条理で意味不明な内容のため酷評の山ができたのは仕方ないだろう。
珍品好きであれこれ深読みするのが好きな人は観ても腹は立たないと思う。とても万人に勧める勇気はないが個人的にはこの作品、決して嫌いではない。