2016-10-09

マーシュランド


2014年製作のスペイン映画。スペインのゴヤ賞で作品賞・監督賞を含む10部門を受賞したという話題の傑作サスペンス作品だ。

ストーリー
時は1980年。永年続いたフランコ独裁政権が崩壊した後のまだ混乱した時代が背景だ。スペインのアンダルシア地方に広がる湿地帯・グアダルキビール湿地にある片田舎にマドリードから左遷されてきた2人の刑事・ペドロとフアンが赴任する。

折りしも町では10代半ばの姉妹が失踪する事件が発生していて、まだ若手のペドロとベテランのフアンは共に捜査に当たることになる。捜査開始後間もなく川に浮かぶ2人の惨殺遺体が発見され検視の結果激しい拷問と陵辱を受けた事が判明する。

両親や友人からの聞き込み情報で2人は町を出たいと言っていた事や、彼女らの部屋から仕事を斡旋する怪しげなパンフレットや姉妹の半裸写真のネガなど不穏な証拠品が発見される。

彼らが捜査を進めるうちに過去に失踪した少女がさらに2人いた事も明らかになる。そして少女たちを言葉巧みに騙して裸の写真を撮って淫行したり拷問して惨殺する異常者の存在が浮かび上がってくる。

レビュー
この作品の特徴は時代背景や風土がもたらす麻薬密売業者の暗躍・低賃金による貧困・警察と地元有力者の癒着などのダーティーな側面を日常として生々しく描写している事だろうか。人々の鬱屈しどろどろした心の内面が湿地帯のじめじめした湿気のように観る者に不快にまとわりつくようだ。

そういった重苦しい空気が全編を覆ってはいるものの実はこの作品には映像的に美しいと感じてハッとする場面がいくつもある。時折湿地帯を上空から俯瞰した映像が挿入されるが入り組んだ地形がまるで絵画のように模様をなして、その上を鳥の群れが飛行するのが小さく見えるシーンなどは思わず見入ってしまった。

この俯瞰映像はオープニングでもしっかり見せてくれるので開始早々グイグイ画面に引き込まれるのは間違いないだろう。その他にも鳥を描写した素晴らしい映像がいくつもありアルベルト・ロドリゲス監督のセンスに圧倒された。

さてミステリーとしての評価だが事件は明確な解決に至っておらず単独犯か複数犯かの説明が不十分なためやや消化不良と言ったところだろうか。直接手を下した実行犯は誰なのか?という肝心な所をぼかしているので不満を感じる知れない。

またラストシーンである人物が「万事解決だろ」と言い意味深な表情を見せる。一瞬人間の凶暴でドス黒い本質を垣間見たようで大変ショックを受けた。「体制が変わってもその人間の本質は変わらない」と言いたげな監督のメッセージが込められているように思ったのだ。

またこの作品は韓国映画の傑作「殺人の追憶」に雰囲気が良く似ていると感じた。あの作品も真犯人が誰なのかはっきりと語られること無く終わる。しかし鑑賞後の余韻は深くそして長く心に残った気がする。「マーシュランド」も決して後味は良くないが重厚で奥深い傑作だと思う。ぜひ一度鑑賞して欲しい。