2016-12-10

JEALOUSY ジェラシー


2009年製作のカナダ映画。言語はフランス語で原題は「JALOUX」。過激な描写はない代わりにじわじわと画面に引き込まれていく味わい深い作品だ。

ストーリー
交際を始めて7年になるトマースとマリアンだが嫉妬深いトマースは奔放なマリアンと性格が合わず喧嘩が絶えない。そんな関係を改善しようとトマースは叔父のミシェルに頼んで彼の別荘を借り週末をマリアンと2人で過ごすことにする。

別荘への道中でも些細なことが原因でつかみ合いの喧嘩が始まり車が路肩に乗り上げて故障してしまったため仕方なく2人は歩いて別荘へと向かう。やっと到着した別荘には何故か見知らぬ中年男がいて既に夕食の用意ができていた。

男はミシェルから別荘の鍵を預かっている隣家のベンだと名乗った。トマースはベンのことを叔父から聞いていたので特に怪しまず夕食をご馳走になる。食後の酒が進み酔っ払ったマリアンはベンと意気投合してイチャイチャし始めトマースは嫉妬で不機嫌になる。

翌日もマリアンに対して馴れなれしい態度を取るベンに腹を立てたトマースは1人で故障した車の様子を見に行く。そこを偶然通りかかった幼なじみに修理屋を紹介して貰うのだが、彼らからベンの風貌が別荘で会った男とは似ても似つかぬことを聞き驚いてしまう。

トマースは疑念と不安を抱えて別荘に戻りマリアンに相談するが彼女は彼の被害妄想だと全く取り合わない。しかし森でベンが車をシートで覆い隠す怪しい姿を目撃したマリアンは、車にあった免許証から男の本名はジャンでトマースの話が本当だったことを知る。

そしてマリアンは森の中で猟銃を構える男の姿を目撃して恐ろしくなり2人は男の車を奪って別荘から逃げようと画策するのだが、事態は彼らが予想もしなかった最悪の方向へと突き進んで行く。

レビュー
言語がフランス語なのでフランス映画かと思ったが正真正銘カナダ映画だった。カナダは英語とフランス語の両方が公用語のようだ。確かに映画の舞台となる別荘があるのは広大な森林と大きな湖のある美しい場所でいかにもカナダの大自然と言った感じがする。

この作品の特徴はベンと名乗る男は偽者で何らかの目的を持って別荘を訪れたことが映画のごく最初の段階で明らかにされる点だ。男は猟銃で隣家の住人を脅して縛り上げ鍵を奪って別荘に進入していた。そして男はミシェルでなくトマース達が来たことに驚いている様子なのだ。

男のターゲットはミシェルだなとすぐ予想が付くのだがでは目的と動機が何なのかは終盤になるまで分からない。しかし男とマリアンの会話の中や時々描写される男の裏の行動にヒントはしっかり提示されている。

またマリアンは車の中にあった財布から男の免許証を発見するのだが財布の中には男と頬を寄せ合う美しい女性の写真が数枚入っていた。ラストにミシェルと彼の連れがトマース達に会うため別荘にやって来た時この写真が持つ意味を驚きと共に知ることになる。

さてトマースとマリアンにとって予想もしなかった事態とは何か?。もしかしたら2人は男の言動に翻弄されアクシデントとはいえ男が望んでいたことを結果的に叶えてやったのかも知れない。その悲劇的な結末に鑑賞後もしばらくは余韻が残った。

サスペンスとして評価した場合、男がベンでないと気付いた時トマースがすぐ隣家を訪ねて事実を確かめなかったのが不自然で大きなマイナス点になってしまう。そして隣家を訪ねなかったことが後々2人を追い詰める可能性に当然気付くべきだろう。

しかしカナダ映画独特のやや暗めな雰囲気に加えて森や大地の描写から感じられる自然の奥深さなど映像美にはハッとさせられる点も多く、派手さは無いものの男と女の愛情の機微を物哀しくもじっくり描いた異色のサスペンスだと思う。