2017-01-15

クーデター


2015年製作のアメリカ映画。観る者に与える恐怖感は並みのホラー映画を軽く超える一級のサバイバル・アクションだ。

ストーリー
世界的に水道支援事業を展開する大企業カーディフ社の技術者ジャックは妻のアニー、長女のルーシー(8才位)、次女のビーズ(5才位)の一家4人で赴任先の東南アジア某国に向かう飛行機に乗っていた。

空港に到着したジャック達は飛行機内で知り合ったオシャレな中年男ハモンドにホテルまで知り合いのタクシーに同乗しないかと誘われる。タクシー運転手ケニーはハモンドの親友で陽気な男だ。ジャック達は同乗させてもらいホテルに到着する。

翌朝ジャックは家族をホテルの部屋に残して街を散歩するのだが突然警察と現地人がぶつかり合うデモに遭遇する。慌ててホテルに戻ったジャックはホテルの玄関でアメリカ人が現地人に射殺される光景を目撃してしまう。

前夜反政府ゲリラが首相を暗殺し警察や軍隊も制圧して水道事業を乗っ取り国民の奴隷化を図る欧米企業に対する報復を開始していた。彼らのターゲットは外国人で「捕虜にはせず皆殺しにする」を合言葉に女子供も容赦なく虐殺する。

やっとの思いでホテルの部屋に戻ったジャックは家族を連れてホテルからの脱出を試みる。決死の覚悟で隣のビルに飛び移りアメリカ大使館を目指して移動するが到着目前で大使館はゲリラの手によって爆破されてしまう。

行き場を無くしたジャック達を救ってくれたのは以外にもハモンドとケニーだった。ハモンドは一家を潜伏先の売春宿に案内し川を下ってベトナム国境へと逃がすと約束する。しかしゲリラに襲撃されてハモンドとケニーは死亡する。

からくもその場から脱出したジャック達だが果たして無事国境を越えることができるのか・・・。

レビュー
久しぶりに手に汗握るという表現がぴったりの作品を観た気がする。ある思想で団結した殺戮集団ほど恐ろしいものはなくゾンビや悪魔、幽霊なんかより一番怖いのは人間なんだと再認識させられた。

反政府ゲリラや独裁政権の軍隊、民兵を相手に戦う映画は数多くあるが、その場合敵と戦うのはアメリカ軍の精鋭部隊や訓練を受けた傭兵たちだ。この作品のように一般人の企業マンが女子供を連れてゲリラに立ち向かう映画は珍しい。

ジャックはピンチに陥った時ただ隠れるのではなく「敵の10歩先を行く」を口癖に前進する。最初は恐怖で先に進めない妻のアニーも徐々に母としての強さを発揮し家族を守るため大胆な行動を取るようになって行く。

強い家族愛に感銘し胸が熱くなるが決して押し付けがましい描写はしていない。とにかくゲリラの猛攻が絶え間なく続き緊張が途切れないので、危機に直面する度彼らが見せる家族への思いがじわじわと心に染み入って来る感じだ。

またハモンドが家族を匿った時自分の正体を明かすのだが彼が何としても彼らを国境まで送り届けようとした理由が良く分かる。ハモンドが命を落とすシーンは壮絶であり同時に哀しくもあった。彼の死は意外で予想を裏切る展開だった。

ジャック役は「エネミー・ライン」のオーウェン・ウィルソン。良き家庭人の夫を好演している。ハモンド役はピアース・ブロスナン。ジェームズ・ボンド役の頃に比べるとかなり年を取った印象だが抜群の存在感だった。

監督はホラー映画「デビル」を撮ったジョン・エリック・ドゥードル。「デビル」に比べると撮影手法・演出共にかなりレベルアップしている。特にスローモーションの使い方が上手く緊張感を高めることに成功していると感じた。

海外に行く人ならいつその身に降りかかってもおかしくない状況を描いているだけに、そのリアルさは生々しく観る者に迫ってくる。理性も感情も無いゾンビよりも正気な人間が狂気に支配され群れをなして襲ってくる方がよっぽど怖い。