2007年製作のイギリス映画。アルバトロス配給ながら完成度の高さに驚かされるハードボイルドタッチのサスペンス映画だ。
ストーリー
チンピラ2人とそれぞれの身内が1人ずつ計4人の無残な遺体が発見される。チンピラ2人は刃物で身体を切られ爪の内側に釘を打ち込まれる拷問を受けていて彼らの身内は感電死。チンピラの指先にも黒く焦げた感電の跡が残っていた。
さらに感電死した人間の腹部には「WΔZ」と読める謎の文字が刃物で刻まれていた。ベテラン刑事のエディと新米女刑事のヘレンが事件の捜査を開始するが、新たに同様の手口でチンピラ2人が拷問を受けその身内が死体で発見される。
エディはチンピラ達が過去に犯した犯罪に解決の糸口があると睨み、彼らが数年前に若い女性をレイプし彼女の母親を射殺した事件に辿り着く。被害女性のジーンが復讐のためにレイプ犯達を殺害した事実を裏付ける証拠も発見される。
既にレイプ犯5人のうち4人が激しい拷問を受けその身内が殺害されており残るのは黒人青年のダニーただ1人だ。エディは彼を保護しジーンの行方を追うがダニーが護衛の刑事の隙を見て逃走してしまう。
結局ダニーはジーンに捕らえられ彼を助けに向かうエディも彼女の罠に嵌まり監禁される。そしてジーンの口から誰もが予想すらしなかったエディの秘密が明らかにされた時、エディとダニーは哀しくも悲惨な結末を迎えるのだった。
レビュー
ストーリーであっさり犯人の名前を明かしてしまったが、この作品はサスペンス映画でありながら犯人探しに重点を置いておらず物語が中盤に差し掛かる頃には既に犯人の名前も犯行動機も分かってしまう。
謎の文字「WΔZ」の意味も早い時点で解き明かされる。これはプライス方程式と呼ばれる数式の一部だが「動物の行動は全て遺伝子に起因するもので人間の自己犠牲に愛は関係しない」という意味だ。愛故の自己犠牲は存在しないと言う事か。
レイプ犯達に襲われた時ジーンは母親を助けることができなかった。苦痛に耐えられず「私の代わりに母親を撃って」と言ってしまったのだ。その後彼女は動物行動学の研究助手をしている時に知った数式「WΔZ」の持つ意味に傾倒して行く。
ジーンはレイプ犯達への復讐と同時に彼らが愛する身内のために拷問に耐えられるか実験したのだ。彼女は対面する椅子にレイプ犯とその身内を座らせて、身内の椅子に感電死させる仕掛けを施しレイプ犯の椅子にスイッチを取り付けて拷問する。
レイプ犯達は皆拷問に耐えられずスイッチを押してしまい目の前で身内が感電死する瞬間を見ることになった。彼女の思う壺ではあるのだが逆に彼女はスイッチを押さないで自らの死を選ぶ人間を探していたのかも知れない。
それはラストにエディが取った行動と彼に対して彼女が言った「ありがとう」という言葉からも想像できる。エディの心理は残念ながら分からないので彼の行動が理解できた訳ではないが彼の最後の姿はあまりにも痛ましく哀しいものだった。
エディ役は名優ステラン・スカルスガルドが演じている。彼の重厚な演技で作品が引き締まったことは間違いない。ヘレン役はメリッサ・ジョージ、ジーン役はセルマ・ブレアで女優陣も贅沢だ。またチンピラ役でトム・ハーディが出ている。
手持ちカメラを使用し手振れや役者の顔のアップを多用した映像はドキュメンタリータッチだ。色彩はコントラストが強くメリハリがあるがイギリス映画独特のダークさは健在でハードボイルドという表現がピッタリの映像美だ。
レイプや拷問シーンがリアルかつ強烈なので万人向けの作品ではないが、ステラン・スカルスガルドの渋い演技は一見の価値があるお勧めの作品だ。