2017-02-19


2013年製作のアメリカ映画。カニバリズムを描いた作品と知った上で観てもその奥深さに驚かされる良作だ。

ストーリー
アメリカ北部の片田舎に住むパーカー家は父親のフランク、母親のエマ、長女のアイリス(19才?)、次女のローズ(14才)、長男のロリー(5才位)の5人家族。ある雨の日母親のエマは買い物に出かけた時に突如血を吐いて倒れ用水路に転落して死亡してしまう。

残された4人は悲嘆に暮れるが実はこの一家には隠された秘密があった。代々この家系では人肉食が伝統として引き継がれ、フランクが近隣の街から女性を拉致しエマが殺害後に死体を解体して肉を調理し一家で食べていたのだ。そしてこれからは長女のアイリスが母親の役目を継がねばならなかった。

父親のフランクは伝統と信仰を頑なに守り一家の暴君として君臨しているが、姉妹は元々人肉食を嫌っており母親が死んだのを契機に止める決意を固めつつあった。しかし表立ってフランクに逆らうことは出来ず、特に長女のアイリスは母親から継いだ役目が重荷となり悩み苦しんでいた。

そんな時街を大雨と洪水が襲いパーカー家の川沿いの土地に埋められていた被害者達の骨が数本下流に流れ出してしまう。それをたまたま発見したのが医師のバローで彼の娘キミーも行方不明者の一人だった。彼はその骨が娘の失踪に関係していることを確信し独自に調査を始める。

バローはエマが死亡した際遺体を解剖した法医学者でもある。エマの遺体にはパーキンソン病の兆候が現れていが、実は人肉食が原因で発症するプリオン病の一種だったことを突き止める。この病の特徴は手の震えなのだがフランクの手がいつも震えているのを彼は知っていた。

フランクはなおも続く大雨のせいで自分の土地から大量の人骨が下流に流れ出たことに気付きもう逃げられないと観念する。彼は神のお告げを受けたと信じて子供達を道連れに一家心中の決意をする。そして人肉スープにヒ素を混ぜて最後の食卓を囲むよう子供達に命令するのだ。

そこに銃を携えてバローが現れフランクに自白を迫るのだが逆にフランクが隠していた銃で反撃しバローを倒す。そしてフランクが子供達を再び食卓に座らせたとき、アイリスとローズの鬱屈した怒りのエネルギーが爆発し想像を超える壮絶な結末を迎えることになる。

レビュー
この作品は伝統や信仰にとり憑かれ狂気に支配された父親に絶対服従を強いられる哀れな姉妹の物語だ。妹のローズは割りと意思が強く「人肉食はもう嫌だ」と姉に対してはっきり言うが、姉のアイリスは同じ思いを持ちながらも父親の目を気にして萎縮している感じだ。

観ていてかなり不快だったのは、自分は女性を拉致して地下室に監禁するだけで後は全て妻や長女にやらせている癖に、家族に対して異常に高圧的な父親の態度だ。女性が殺害と解体を担当するのがこの家系の伝統ではあるのだがそれにしても随分不遜な男だと思った。

だからこそラストでアイリスとローズが父親に猛烈な反撃を仕掛けるシーンは強烈でもあり爽快でもあった。この父親の信仰とは自分の都合で神のお告げを引っ張り出し、思い通りに家族を操るための身勝手な手段に過ぎない。そんな最低の男に相応しい末路だった。

しかし子供達に根付いたカニバリズムは父親の束縛から離れても消えるものではないとラストシーンは暗示している。父親への反撃シーンからもそれは明確に見て取ることができる。果たして彼らはこれからどんな人生を送るのだろうか・・・考えると複雑な思いがする。

姉のアイリス役はアンビル・チルダーズが演じている。陰のある表情が印象的で若い頃のパトリシア・アークエットに少し似ていると思った。妹のローズ役はジュリア・ガーナー。姉とは対照的なキャラクターを上手く演じていてこれからが楽しみな女優さんだ。

残酷描写についてだがカニバリズムが題材とはいえ食人族系のような内臓や血しぶきは殆ど出ないので、そちらを期待するとガッカリするかも知れない。しかしショック演出で効果的に血が使われている部分も多く残酷度は普通のホラー映画並みにはあると思う。

この作品はアメリカ映画だが映像や演出から受ける印象はヨーロッパ映画、特にフレンチ・ホラーの雰囲気に近いものを感じる。ラストの衝撃シーンもフレンチ・ホラーっぽいショッキング描写になっていいる。未見の方はぜひ一度観て欲しいお勧めの作品だ。