2012年製作のイギリス映画。タイトルは少女1人VS絶対多数となっているが実際の敵はそれ程多くない。普通の少女が軍人相手に渡り合うスリリングな作品だ。
ストーリー
1990年代のバルカン半島。激化する内戦下で軍人が民間人を見境い無く虐殺していた。聾唖の少女エンジェルは目の前で母親が射殺され同じ村の女性達と一緒に売春宿に連行される。そこでオーナーのビクトルに気に入られ雑用係になる。
ある日エンジェルは新たに連行されてきた手話ができる女性と仲良くなる。エンジェルは自分の部屋の通風孔から壁の隙間を通って屋根裏に登り、彼女の部屋の通風孔から中に忍び込んで束の間安らぎの時間を過ごすのが日課になっていた。
売春宿にゴランという名の軍人が4人の部下と一緒に現れる。ゴランはエンジェルの母親殺害を部下に命じた憎い仇だった。ゴランの部下が彼女の友達をなぶり殺しにするのを目撃したエンジェルはその男を包丁で殺害してしまう。
ゴランは怒り狂いエンジェルを探すが彼女は壁の隙間や屋根裏を身軽にすり抜けて彼らの攻撃を巧みにかわしながら反撃する。エンジェルの予想外の反撃で次々に部下を失ったゴランは窓から外に脱出した彼女を執拗に追う。
果たしてエンジェルは彼の追撃から逃れることができるのか・・・。
レビュー
タイトルから派手な格闘や銃撃戦を期待して鑑賞するときっとガッカリすると思う。ヒロインは壁の隙間や屋根裏をスルスルと素早く移動し敵を撹乱して隙を誘いナイフやレンガなどで反撃する。軍人達が相手が少女だと侮り自分達の力を過信して墓穴を掘る感じだ。
復讐劇が開始するのはストーリーの中盤を過ぎたあたりからだ。それまでは売春宿に監禁され男達に陵辱されたうえに暴行を加えられる女性達の悲惨な姿が淡々と映し出される。激しい暴行の末命を落とした女性達の死体は森の中に野ざらしの状態で捨てられるのだ。
ヒロインも友達ができるまではオーナーの命令で女性達に麻薬を打ち食事を与え汚物を捨てる雑用をロボットのように繰り返し、ベッドに横になって殺された母親の想い出に浸る哀しい毎日を送っていた。中盤頃までそんな雰囲気が続くので結構気が滅入る。
脱出してからもゴランとビクトルの対立が引き起こす混乱に乗じて民家に逃げ込むのだがそこは敵の家だった。この民家から逃げ出してゴランとの最終対決のあと最後に辿り着いた民家の住人も彼女にとっては敵と同じだった。何とも後味の悪いエンディングだ。
ゴランとの決戦は自ら墓穴を掘った彼の完敗だ。しかし何故かエンジェルは止めを刺さずに逃げてしまう。あそこで派手にぶっ殺していれば少しはスッキリしたかもしれないが相当なモヤモヤ感が残った。死んだ女性達の分までタップリとお返しをして欲しかった。
監督はポール・ハイエットで「デビルズ・トレイン」を撮っている。エンジェル役のロジー・デイとゴラン役のショーン・パートウィーが「デビルズ・トレイン」に出てた理由に納得がいった。名バイプレイヤーのショーン・パートウィーはご存知の方も多いと思う。
切れ味のあるアクションとは無縁の作品だが刃物が人体に突き刺さる痛い演出はかなり多めだ。エンジェルが売春宿に連行された日1人の女性が見せしめにナイフで喉を裂かれるシーンは強烈だった。エンジェルが友達の仇を討つシーンも包丁を刺しまくって流血していた。
感想としてはとても万人にはお勧めできないものの、こういったイギリスも含めたヨーロッパ作品の重苦しいストーリーや暗い雰囲気が好きな人にはお勧めの作品だ。ただしゴランにキッチリ止めを刺さなかったエンジェルの行動には疑問が残ると思う。