2017-06-11

白い沈黙


2014年製作のカナダ映画。「デビルズ・ノット」「クロエ」のアトム・エゴヤンが監督したサスペンス映画だ。

ストーリー
カナダのとある雪深い街で造園業を営むマシューは妻のティナと9歳になる娘キャスの三人で平凡ながら幸せな毎日を送っていた。ところがある日キャスを車に残してマシューが買い物をしている僅かな隙にキャスが誘拐されてしまう。

児童虐待組織を専門に捜査するチームの女刑事ニコールと相棒のジェフリーはキャス誘拐失踪事件を担当するが、彼らは当初マシューが犯人ではないかと疑う。妻のティナにも責め立てられ失意のマシューはティナと別居して苦難の日々を送ることに。

やがて8年の歳月が流れニコールのチームは大量のネット情報の中からキャスと思われる少女の画像を入手する。チームはキャスが組織に利用されネットを通じて被害者となる少女達を誘い出す勧誘係をさせられていると推測する。

ニコールは囮捜査で組織の一人を検挙する事に成功しマスコミに大きく取り上げられる。しかし逆に組織に目をつけられた彼女は講演会のスピーチ会場に潜入した組織の女工作員の手によって拉致されてしまう。果たしてマシューは娘を取り戻すことができるのか。そしてニコールの運命は?。

レビュー
かなり大雑把なストーリー紹介をしてしまったが実際はキャスが誘拐されてから4年後、6年後、8年後と割りと小刻みな描写がされている。その上エゴヤン監督は各時期のエピソードを時系列通りではなくシャッフルして配置するので、今がいつなのかが分かりにくく観ていて頭が混乱する。

また誘拐をテーマにした映画は被害者は既に死亡していて犯人を捜す過程を描くものが多いが、この作品では開始早々現在のキャスと彼女の監視役ミカのやり取りや監禁部屋の状況が写し出されるので、犯人捜しとは趣向が全く異なる作品だと分かる。

キャスに対するミカの態度は紳士的で監禁部屋の環境もそれなりに配慮されたものだ。組織としてはキャスの役割を重要視し役割を果たす代償に彼女の希望を聞いて可能な限り叶えてやったりもする。しかし捜査チームが分析した組織の実態は恐ろしくもおぞましいものだった。

例えばティナの勤務先のホテルに隠しカメラを設置し娘を思い出す品物をわざと置いて嘆き悲しむ姿をモニターしたり、キャスに家族との思い出を語らせ録音したりする。それらは組織の会員である小児性愛者達に配信され彼らは被害者や家族の悲しみの物語を楽しむ・・・全くとんでもない変態どもだ。

さてこの作品を映画として評価すると正直細部の詰めが甘いと言う印象を受ける。誘拐事件を題材にした映画を今までに無い新しい切り口で見せる!その意気込みは買うのだが、先に触れた観る者を混乱させる時系列のシャッフルを含め演出面でどうしても不満が残る。

特に組織を描くに当たって出てくる関係者は監視役のミカ、ニコールを拉致した女工作員、囮捜査で捕まった男の3人だけ。ここはミカに指示を出す上の人間がいたり監禁部屋のある屋敷の警備要員とかが描かれても良かったのでは?と思った。

しかもラスト近くのミカと女工作員の行動がお粗末でとても大きな組織の一員とは思えない。上からの指示を仰がないのか?と疑問を感じてしまう。ネタばれになるが結果的にマシューとの無意味なカーチェイスや銃撃戦がおっ始まって足が付いてしまった。

俳優陣だがマシュー役にはライアン・レイノルズが扮していて不器用ながらも娘をひたすら愛する父親を好演している。ミカ役は「ウルヴァリン」でも激太りした怪力男役でライアンと競演していたケヴィン・デュランド。ティナ役はミレーユ・イーノス、ニコール役はロザリオ・ドーソンで女優陣も充実している。

総評としては、中盤まではかなり引き込まれて観る事ができたものの終盤の現実味の乏しいミカ達の行動と妙に端折った感じの締めくくりが残念だった。ラストはもう少しヴォリュームを付けて余韻が残るエンディングにして欲しかった・・・誘拐物には珍しいハッピー・エンドなので特にそう感じた。

それからキャス役のアレクシア・ファストが劇中でほんの少し歌う歌がエンドロールでも流れる。アレクシア本人が歌っているちょっと物悲しい歌が本編の物足りなさを多少補ってくれている。決して悪いとは思わないが勿体無い感じがする作品だった。