2017-06-05

オオカミは嘘をつく


2013年製作のイスラエル映画。イスラエル映画を観るのは初めてだがその完成度の高さに圧倒された。超一級のサスペンス映画だ。

ストーリー
少女誘拐惨殺事件を追う刑事のミッキは重要容疑者と目星を付けた教師ドロールに暴行を加えて自供を迫る。しかし暴行動画がネットに流れてしまいミッキは職務規定違反で停職、ドロールは少女誘拐犯の烙印を押され教師をクビになってしまう。

そんな時行方不明になっていた少女ミカが無残な遺体で発見される。ミッキはドロールを拉致し森の中で拳銃を突きつけ自白を迫るが、娘の復讐のため行動を開始していたミカの父親ギディがミッキとドロールをシャベルで殴り気絶させる。

ギディは人里離れた場所に地下室付きの隠れ家を借りていた。ミカは陵辱され激しい拷問を受けた上に頭部は遺体から切断されており、ギディは頭部の隠し場所を吐かせミカの無念を晴らすためにドロールを地下室で拷問に掛ける準備を整えていたのだ。

彼は二人を隠れ家に連れて行き最初にドロールを地下室の床に固定した椅子に縛り付ける。そして意識を取り戻したミッキに拷問を手伝うよう要求し自白するまでならとの条件でミッキは彼に従うことにする。

地下の密室で熾烈な拷問が開始されるのだがドロールは自分の無実を主張し何も知らないと繰り返すだけ。そして事態はギディの想定を超えた複雑な方向へと進んで行く。果たして真犯人は?そして彼は娘の頭部を発見できるのか・・・。

レビュー
まずストーリーの面白さは言うまでもないがスローモーションやズームを多用し非常に凝ったカメラワークが特徴のハイレベルな映像や、ドキッとさせる効果的な音響演出、そしてテンポが良く流れに無駄が無い巧みな編集の素晴らしさに脱帽した。

これらは技術力の高さだけでなく監督のセンスがいかに秀でているかを証明している。アハロン・ケシャレスとナヴォット・パプシャドの二人が共同監督として名を連ねているが、彼らは2010年に「ザ・マッドネス 狂乱の森」というホラーも撮っている。

ストーリーだが拷問が始まってからはほぼ密室が舞台になる。地下室と隠れ家の一階がその舞台なのだが途中で意外な人物が闖入してきたりする。この先一体どうなるんだという先の読めなさが緊張感をもたらしてより一層物語に引き込まれてしまう。

また凄惨な拷問シーンとは対照的にブラックな笑いが所々に散りばめられていてこの演出も効果的で上手いと思った。特にギディが拷問の合間に一階のキッチンで楽しげにケーキを焼くシーンなどは秀逸。しかもこのケーキは後半でしっかり役目を果たすマストアイテムなのだ。

そしてこの作品がサスペンスとして優れているのは何気なく観ていると気付かない重要なヒントが映像の中にハッキリと写されている点だ。これは観ている側の思い込み、ミスリードを利用した大胆な仕掛けなのだが、ラストカットでその真の意味が分かった時驚愕のあまりポカ~ンとなる。

真犯人は誰なのか?。ラストに全てが明らかになった時犯人の並外れた異常さに唖然とすることだろう。果たして誰がオオカミなのか・・・ご自分の目で確かめて頂きたい。できれば2回鑑賞すると犯人の行動と表情そして犯人の家の板壁の色など、監督がわざわざズームや意味深な演出で種明かしをしていることに気付いて歯軋りすると思う。