2017-06-19

ロスト・ウィークエンド


2008年製作のオーストラリア映画。「ロング・ウィークエンド(1978)」のリメイク作品で不思議な雰囲気のあるサスペンス・ホラー映画だ。

ストーリー
ピーターとカーラの夫婦は既に愛情が冷め切っているのだが長期休暇を利用して海辺でキャンプをしようと愛犬クリケットと一緒に出かける。キャンプはピーターが一方的に提案したものでカーラは嫌だけど渋々付き合う感じだ。

道に迷いながら夜中に海岸近くに辿り着き翌朝はテントを張って美しく広大な海で泳いだり砂浜で日光浴をして楽しむピ-ターとカーラ。しかしちょっとした言葉遣いや態度が互いをイラつかせ大自然の中でも二人は心を通わせることができずにいた。

特にカーラはこの場所に来てから精神状態が不安定になってしまう。何故なら夜中に森から聞こえてくる赤ん坊のような動物の泣き声や沖合いに見える黒い海中生物の影、突然ピーターに襲い掛かる鷲などの自然の脅威に耐えられなくなってきたからだ。

家に帰ろうと訴えるカーラに対し煮え切らない態度のピーター。キレるカーラに向かって彼女の過去の浮気をピーターが責めたため二人の離婚が決定的になる。そんな時クリケットがいなくなりその件で取っ組み合いのケンカが始まってカーラは車で逃げ出してしまう。

カーラが戻ることを期待してテントで夜を過ごすピーター。しかしカーラは海岸脇の森から抜け出せず闇雲に車を走らせていた。森の不穏な空気に怯えるピーターは持ってきたライフル銃を乱射し水中銃まで発射してしまうが、夜が明けてピーターが森の中で見たものは・・・。

レビュー
この作品には直接人間の命を脅かす怪物や殺人者が出てくる訳ではない。では何が怖いのかと言うと自然がもたらす些細な現象から元々問題を抱えた人間がストレスを受け続けることで徐々に精神を蝕まれていく過程そのものだ。

互いへの信頼を失ったこの夫婦には深い溝が出来ている。その溝に入り込み完全な亀裂を生じさせたのはごく些細な自然界の出来事の積み重ねだった。例えば海に見える黒い影は砂浜に打上げられた子供を捜すジュゴンなのだがその鳴き声が赤ん坊の声に聞こえるのだ。

鷲がピーターを襲ったのは木から落ちた卵を取り返すためだった。また水中銃が暴発して矢がカーラの近くの木に刺さったのは偶然としか言いようがない。それらの出来事がカーラにヒステリーを起こさせ自ずと怒りの矛先はピーターに向かっていく。

しかし深読みをすれば自然が不遜な人間に罰を与えているとも言えそうだ。ピーターは根っから無神経な男で道中でカンガルーを轢き殺す、ライフル銃を海鳥に向けて乱射する(水中の黒い影=ジュゴンまで撃っていた)、瓶やゴミはポイポイ捨てるなど自然を冒涜するにも程がある。

カーラは元々自然が嫌いで鷲の卵を木に投げつけたり殺虫剤を撒いて蟻を殺しまくっている。また彼女は浮気相手との間に出来た子供を堕胎していて大地の母とも言うべき命の源=この地に最もそぐわない人物かも知れない。奇しくもこの台詞はピーターが言うのだから皮肉なものだ。

カンガルー、ジュゴン、鷲、海鳥、蛇・・・これらの生き物に何らかのメッセージが込められている。彼らは人間に罰を与えるための使者ではないかと思ってしまう。特にジュゴンはピータ-の前にショッキングな再登場の仕方をするかなり強力なメッセンジャーだ。

主演俳優だがピーター役はジェイムズ(ジム)・カヴィーゼル、カーラ役はクラウディア・カーヴァンが演じている。劇中の90%は犬を除けば出てくるのはこの二人だけだ。クラウディア・カーヴァンはスリムな体型で水着姿が眩しくちょっとドキっとするセクシーなシーンもあった。

さて肝心のピーターとカーラを待っていた結末とは・・・。正直言ってかなり悲惨なものだ。ピーターが放った水中銃の矢は何処へ・・・狂乱したピーターはやっとのことで森を抜け出し公道に出るが・・・かなりグロい結末にショックを受けること請け合いだ。そしてラストに二人の結婚式のビデオが流されるのだがここまで皮肉なエンディングは初めて観た。