2019-06-15
クワイエット・プレイス
2018年制作のアメリカ映画。「音を立てたら、即死」と言うキャッチフレーズが印象的なヒット作品。今回予備知識無しで視聴したので正直な感想を述べてみたい。
ストーリー
2020年、地球外生命体の襲来により地球は壊滅的な打撃を受けた。世界各地で多数の死者が出ており通信網が寸断され孤立した状況下で、人類の生き残りを懸けたサバイバルが続いていた。そしてこの地球外生命体(以下、エイリアンと称す)には大きな特徴があった。
エイリアンには視力がなく聴力を頼りに攻撃対象の位置を特定するのだ。形状は人型だが全身は鱗状の鎧に覆われ4足で高速移動する。主に前足の打撃で獲物を殺傷し大きく裂けた口には無数の牙がある。また威嚇時には頭部の鎧が扇状に開き筋肉組織が見える。
田舎町で農家を営むアボット一家は1年前に次男のボーをエイリアンに殺害され、今は父親のリー、母親のイヴリン、長女のリーガン、長男のマーカスの4人暮らし。またリーガンは障害のため耳が聞こえない。父親手製の補聴器を付けているが効果は無いようだ。
イヴリンは妊娠しており出産予定日が近い状態だ。家族は音を立てないよう会話は手話で行い、裸足で歩き、食事は食器の代わりに葉っぱを利用して手で食べる。また非常時用にさとうきび畑へ囮の花火を設置し家屋の周りに多数の赤色灯が点く仕掛けも用意していた。
ある日、リーはマーカスを連れ魚捕りに出掛ける。リーはリーガンに母親の世話を頼むがボーの死以来父親に反抗的な彼女は黙ってボーの墓へ向かう。そんな家族不在の時にイヴリンが破水してしまい苦しむ声に気付いたエイリアンが家屋に侵入して来る。
日が暮れ戻ってきたリーとマーカスはイヴリンが点けた赤色灯に気付く。リーは家に向かいマーカスは花火を点けにさとうきび畑へ急いだ。花火のお蔭で間一髪出産できたイヴリンはリーと共に地下室に避難する。ここには防音対策も考えた赤ちゃん用のベッド(箱)があった。
花火を見て戻って来たリーガンはマーカスと合流しサイロの上で父の助けを待った。しかし天板が外れマーカスがサイロの中に落下してしまう。リーガンも中に飛び込むがエイリアンが音に反応し襲撃してくる。だがリーガンの補聴器が高周波を出しエイリアンは一旦退散する。
リーはサイロの近くで無事子供達を発見するがエイリアンの気配に気付く。ひとまず彼らをトラックに避難させたリーだがエイリアンの奇襲を受け怪我をする。それを見たマーカスが叫んだためエイリアンはトラックに向かってしまう。
リーは手話でリーガンへの愛を伝え決死の行動に出るのだった。
レビュー
★かなり批判的な内容です。この作品に愛着がある方はスルーしてください!。
予備知識がゼロだったのでエイリアンの侵略物と知って驚いた。何となく家を舞台にした心霊物かモンスター物と思っていた。その驚きが良い方に作用すれば満足できたかも知れないが残念ながら悪い方に作用してしまった。
映画開始直後で既に侵略から89日経過している。「音だ!」と言う見出しの新聞記事を見る限りエイリアンの特性は初期の段階で解明されていたと思われる。しかし何故か侵略の詳細が未だに不明だ。母船はあるのか?攻撃機を保有しているのか?何処に降下してきたのか?。
これらは地球外生命体の侵略を描くSF映画に欠かすことができない情報だ。それをオミットしてしまうとリアリティが根本から失われる。「メキシコへ隕石落下」との記事もあったが、少数のエイリアンが地球上で大量に繁殖し4足歩行で海を渡ったとでも言うのだろうか。
あまりツッコミを入れると無粋だと言われそうだが、いくら何でも許容範囲があると思う。この謎意外にも理解不能な部分が多々ある。こんな状況下で奥さんが妊娠?。日数を考慮すると侵略後、それも次男を亡くした後に懐妊しているのは間違いない。
赤ちゃんは泣くのが仕事である。作品中の赤ちゃんは殆ど泣かないが現実的にはあり得ない。子育てを経験した人ならすぐ分かる筈だ。あんな箱に入れた位で泣き声が聞こえないならエイリアンの耳は制作者に都合良く出来過ぎている。実際そうなのだが。
そしてやたらに腹が立つ長女の行動の数々。次男の死、母親出産時の危機、父親の運命、これら全てに彼女の無分別な行動が関わっている。特に襲われたトラックの中で補聴器のSWを切った理由が判然とせず、父親が命がけで子供達を守るシーンが茶番に見える。
まだあって申し訳ないのだが、リーガンが補聴器の対エイリアン効果にやっと気付き迫ってくるエイリアンを弱らせるラストシーン。イヴリンがある武器でトドメを刺すがそれがアレだったのには驚いた。アレ1発で倒せるのなら世界最強の米軍は今まで何してたの?。
この作品の制作総指揮はマイケル・ベイ。監督はジョン・クラシンスキーで制作・脚本そして父親のリー役までこなしている。妻役のエミリー・ブラントは実生活でもションの奥さんだ。スタッフや俳優を見る限りA級作品になる可能性が大なのに何故B級化したのだろうか。
私見だが監督のジョンはホラー映画の演出手法を理解していないと感じた。監督に決まってからホラー映画を観まくったらしいが残念ながら恐怖には程遠い演出だった。ホラー映画のリアリズムは事の真偽を問わず観る者の心と身体に恐怖を植え付ける表現力に依存すると思う。
また多数のツッコミどころが何故生じたのか考えると、監督が描きたいのは家族愛なのでどうしても感動的な展開が欲しい。そこで雑音となる外界の情報は無視し展開に合わせるため登場人物に不自然な行動を取らせた。その結果リアリティが損なわれ求心力が低下した訳だ。
この作品を管理人なりに評価すると総合評価:1.2(Max=5.0)となる。配役に関する評価はリーガン役のミリセント・シモンズが醸し出す違和感の影響が大きく低めになった。本人に罪はないがその不貞腐れた表情に苛立ちが募り感情移入ができない。
ミリセント・シモンズは実際に耳が不自由な女優さんだが、彼女の採用に拘った監督の判断が逆に足を引っ張った印象を受ける。何度も言うが本人に罪は無いのだ。彼女を採用しイライラ感を募らせる脚本を書き演出をした監督が責任を負うべき話である。
正直これだけブログで映画を酷評したのは初めてに近い。マイケル・ベイがプロデュースするようなメジャー系作品のレビューはあまり書かないのだが、本作の場合鑑賞後の気持ちのやり場に困り敢えて書くことにした。結果的にB級作品化しているので書いても問題ないか。
大規模な宇宙からの侵略を前提にするのなら「インディペンデンス・デイ」や「世界侵略:ロサンゼルス決戦」のような作品を撮れば良い訳で、本作の場合エイリアンもホラーも家族愛もと欲張った結果軸となるテーマが曖昧になり失速したように思う。
https://tenebrae82.blogspot.com/2019/06/blog-post_15.htmlクワイエット・プレイス