2019-06-30

ザ・モンスター


2016年制作のアメリカ映画。シンプルなモンスター映画ながら母娘の絆を織り込むことで意外な感動作となっている。

ストーリー
キャシーは夫と離婚し娘のリジーと2人暮らし。離婚の原因はキャシーのアルコール依存症だった。不良少女がそのまま大人になったような彼女は、奔放と言えば聞こえが良いが自堕落で口が悪く子育ては苦手だ。そんな母親と一緒に暮らすリジーは彼女を嫌い憎んでさえいた。

ある日、父親の元にリジーを届けるため2人は車で家を出る。キャシーが寝坊したせいで既に日が暮れてしまい雨も降り始める。車の往来が全く無い旧道を走っているとダイヤがパンクしスピンした際に木に激突して車は動かなくなってしまう。幸い2人に大きな怪我は無かった。

直ぐに救急車とレッカー車を呼ぶが車がスピンした際にはねたのか狼の死体が道に横たわっている。死体を確かめると他の動物に襲われたと思われる傷があり大きな牙が身体に喰い込んでいた。しばらく待つとレッカー車が到着し作業員のジェシーが車の下に潜り作業を始めた。

ところが急に作業音がしなくなり名前を呼んでも返事がない。不審に思っていると突如ボンネットの上に千切れた片腕が飛んで来てジェシーが道を這っているのが見える。パニックでどうすることもできない2人。彼はレッカー車に辿り着いた所で怪物に引き摺られ森に消えてしまう。

何とかこの場から逃げるためキャシーはレッカー車へ移動する決意をする。しかし突然窓を破って怪物の手が襲いかかり彼女は車外へ引っ張り出される。だが間一髪のタイミングで救急車が到着し眩しいライトを見た怪物は森へと姿を消す。キャシーは腹部にかなりの傷を負い重症だ。

周辺を確認していた隊員の1人は早速怪物の餌食になり救急車のフロントガラスに放り投げられる。運転席にいた1人も外れたフロントガラスから車外に連れ去られた。しかしキャシーが車内に侵入を図る怪物の目に懐中電灯の光を当てると奇声を上げて森へと逃げて行った。

そのスキに彼女は救急車を走らせその場から離れようとするが、動きの早い怪物の体当たりを喰らい救急車は横転してしまう。キャシーは内蔵を損傷した自分がもう助からないことをリジーに告げ、合図をした瞬間に逃げるようリジーに命じ自ら囮になるため車外に出る。

キャシーは準備した松明を消しリジーに合図をするが彼女は逃げなかった。怪物に襲われる母親を助けるため懐中電灯で怪物の後頭部を殴るリジー。怪物は懐中電灯の光に怯み一旦逃げて行った。しかしリジーの願いは叶わずキャシーは「ごめんね」と言い残し死んでしまう。

リジーは母親に別れを告げ彼女の形見のライターを手に反撃へ転じる。

レビュー
ストーリーを読んで頂けると分かる通り、この作品はモンスター・ホラーであると同時に母娘の破綻しかけた絆の再生を描いた物語だ。どちらかと言うと後者の比率の方が大きく、怪物との対峙シーンの間に過去の母娘間の軋轢シーンを挟み込み比較的ゆっくりしたテンポで話が進む。

それらのシーンを見ると確かにキャシーは酷い母親で娘のリジーが受けた心の傷の大きさが良く分かる。しかし互いに憎みながらも双方が相手に深い愛情を持っていることも分かるのだ。激しく罵り合うシーンと互いへの思いやりを感じさせるシーンを絶妙の配列で挟み込んでいる。

そして娘の命を脅かす局面に至ってキャシーの内に秘めた母性が開花する。リジーへの心配が素直に言葉や態度に現れ、命がけで娘を守る強さが全面に出て来るのだ。母親が変われば娘も変わる。大人びた態度は消え頼りないと思っていた母親に素直に心を開くことができるようになる。

そんな関係が怪物の手によって断ち切られるのはやるせなく、キャシーとリジーの別れの場面は泣けた。しかしこの別れがリジーを大きく成長させる、そんな予感がするラストシーンは素晴らしかった。夜明け前の草原に立ち「私はもう怖くない」と心の中で呟くリジー。ここも泣ける。

さて準主役の怪物の外観だが身体はそれ程大きくない。2足歩行型で首から下は中型のゴリラと言った感じだろうか。ただし体毛はなく全身がヌメヌメとした粘液で覆われている。顔は何故かゴジラに似ている。横から見ると特にそう感じる。肌もいわゆるゴジラ肌っぽくゴツゴツだ。

おそらくCGは殆ど使用せず着ぐるみに特殊メイクを施したアナログ造形と思われる。そしてこの怪物の特性は光に弱く音に敏感と言う良くあるパターンだ。音に関してはリジーお気に入りの歌が流れるぬいぐるみに反応して襲いかかって来ることで分かるが、もう少し捻りが欲しい。

またこの怪物、すこぶる弱い。もう信じられないくらい弱い。リジーの咄嗟のアイデアが功を奏したとは言え、ヌメヌメの外皮はこけ脅しだったのかと唖然とする。しかしこの作品の主題を考えるとヤツは準主役どころか添え物だったのだと思えば納得が行くと言うものである。

俳優陣だが、キャシー役はゾーイ・カザン。髪を赤く染め身体の随所にタトゥーを入れてイメージ作りをしている。リジー役はエラ・バレンティン。正直彼女抜きでこの作品は成立しなかったのでは?と思うほど魅力的な女優さんで、撮影時の年齢は15歳の筈だ。(役柄上は10歳)

彼女どこかで観たと思って調べたらトーマス・ジェーン、ローレンス・フィッシュバーン共演の「スタンドオフ」に出ていた。殺し屋に追われる少女の役で赤い服と眼鏡が凄く印象に残っている。ほぼ密室劇に近いこの作品、なかなか面白いので機会があればレビューしてみたい。

さていつものお勧め度だが、残酷シーンや怪物の大暴れを期待すると100%外れだ。レビューに書いた通り母娘の絆を描いたドラマでありテンポもゆったりしている。そこを踏まえた上で鑑賞すると存外拾い物だったと思う筈だ。特にエラ・バレンティン嬢の演技は必見と言って良い。