2019-07-22

ミッシング・チャイルド 呪いの十字架


2017年制作のアイスランド映画。心霊現象は出て来るがサスペンス要素が強く、巧みに仕掛けられたトリックに驚かされる。同時に奥深くて物悲しいストーリーが秀逸な傑作だ。

ストーリー
老人連続不審死編
アイスランドのとある港町で精神科医をしているフレイルは警察から検視の立合いを依頼される。担当は女刑事のダグニー。現場は教会で71歳の老女が首吊り自殺をしていた。教会内部の祭壇は壊され壁には大きく「不潔」と殴り書きがされている。そして老女の背中には十字架の形をした火傷のような跡が十数箇所も残っていた。

警察の調べで60年前にこの教会で祭壇を破壊し壁に同じ落書きをした少年がいた事実が判明する。彼の名はベルノーデュス。事件の5日後行方不明になっている。そして彼の家からクラスの生徒8人の顔が十字型に削られた集合写真が見つかる。さらに父親から虐待を受け背中に十字型の火傷が多数あったこと、8人の生徒から「不潔」と虐められていたことが分かる。

また写真の顔に傷を付けられた人物がこの3年の間に次々に不審死しており今回の首吊りは6人目だと言う。そして7人目の老人の自殺死体が発見され背中には十字架の跡が多数あった。残るのはウルスラと言う老女のみだが彼女は偶然フレイルの患者だった。ウルスラは殆ど話すことができないがフレイルの質問に「ベンニは底にいる。全てが緑。」と謎の言葉を呟いた。

実はフレイルの息子ベンニは3年前にかくれんぼの最中行方不明になり今も見つかっていない。フレイルはウルスラの言葉からベンニを最後に見た自閉症の少年が「ベンニは緑色の潜水艦に隠れた。」と証言したのを思い出す。そしてその少年が描いた「緑色の潜水艦」の絵を見た女刑事ダグニーは、あるインスピレーションを得て埋もれていた事件との関連に気付く。

島の民宿編
ガルザー、カトリーン夫婦と未亡人のリーフはとある港町の沖合にある小島で民宿を始めるため荷物1式をボートに積んでやって来た。シーズンオフの今は無人だが夏場は観光客で賑わうらしい。民宿に改造する建物は築60年以上経つ廃屋だ。内部は予想以上に傷んでいて改修には手間と時間が掛かりそうだが、ガルザーとリーフが中心となって作業を進めていく。

カトリーンは夏前に死産をしたせいで精神的に不安定となりガルザーとの結婚生活は破綻しかけている。ガルザーとリーフは夏にこの島の貸し別荘を訪れていてその際不倫関係になった。カトリーンもそのことに薄々気付いており3人のバランスは非常に危うい状態にある。ガルザーは民宿の準備が整い次第一旦家に戻り彼女にリーフとの関係を告白するつもりでいた。

カトリーンは島に来てから奇妙な体験をするようになる。「ママ」と呼ぶ声が聞こえたりフードを被った少年の霊を見たりするのだ。そして濡れた足跡に導かれて入った地下室でミイラ化した少年の遺体を発見する。地下室の壁には「不潔」の文字があり少年の持ち物と思われるノートにはベルノーデュスと名前が書いてあった。また遺体はその手に母親の写真を握りしめていた。

ガルザーは遺体の発見を通報しようとするが島には固定電話がなく携帯も通じない。カトリーンは少年が現れる夢にうなされ島を出ようと言い始める。やむなくガルザー達が夏に泊まった貸し別荘に移動する3人。しかし今度はガルザーとリーフの前にフードを被った少年が現れ焼却場跡に向け走って行く。彼らが少年を追って焼却場跡に入ったところ突然煉瓦の煙突が崩れ下敷きになってしまう。

音と振動に驚いてカトリーンが現場に駆け付けると、ガルザーは既に息がなくリーフも瀕死の状態だった。助けを呼ぶためリーフの携帯を持って電波が届きそうな高い場所へ移動するが、そこで携帯の履歴を見た彼女はリーフがガルザーの子を身籠っていることを知る。カトリーンは助けを呼ばず携帯をその場に捨てた。そして廃屋の地下室に戻り静かにベルノーデュスの側に横たわった。

レビュー
ストーリーは2つの物語が交互に描かれる関係上そのまま書くのが難しく2編に分けさせて貰った。実際の作品では老人連続不審死事件と島の民宿での事件が微妙に絡みながら同時進行のように描かれる。しかし島の民宿で起こる出来事は「ベルノーデュスの遺体発見」を除けばどちらかと言えばサブストーリーに近い感じだ。この作品の肝は「ベルノーデュスの失踪と60年後の復讐」が「ベンニの失踪」とどう結びつくのかと言う点だろう。

ベルノーデュスの失踪については老女ウルスラが証言し映像も流れるので明らかだ。いじめっ子から逃げるため彼は島へ渡る船に忍び込んだ。その姿をウルスラは目撃している。彼がこの島を選んだ理由は彼の母親の墓があるからと想像できる。カトリーンが墓標を見るシーンが度々あり碑銘は彼の母親の名「ベルグディス」となっている。ベルノーデュスは廃屋に身を隠し地下室で餓死する。

しかし孤独死した少年の霊が何故60年近く経過してから自分を虐めた同級生に対する復讐を始めたのだろうか。フレイルは別居中の妻の弁護士から「遺体が発見されず死因が不明なままだとその魂は生と死の間に閉じ込められる。次の段階に進めず取り残された魂はその苦しみが憎しみや怒りに変わり、この世に姿を現すようになって関係する人間に危害を加える。ベンニを早く見つけないと深刻なことになる。」と忠告される。

そして終盤に老女ウルスラがフレイルに告白した言葉「ベンニがベルノーデュスを目覚めさせた。決して起こしてはいけなかったのに。」が決定的なヒントになる。しかしベンニの霊が復讐の引き金になったとしてもベンニとベルノーデュスの接点は何処にあったのだろうか。ここで「ベンニは緑色の潜水艦に隠れた。」と言う証言が大きな意味を持って来る。

実は観るものが錯誤を起こすトリックがこの作品には仕掛けられているのだ。

トリック自体は良く使われる手法なのに終盤に明かされるまで全く気付かなかった。勘が良い人なら「緑色の潜水艦」が何なのか直ぐに分かるかも知れない。何せ作品の冒頭にさり気なく写っているのだから。しかし「緑色の潜水艦」の正体が分かってもある矛盾が立ち塞がって来ると思う。女刑事ダグニーの報告書を見て矛盾が生じる理由を理解すれば2人の接点が何処なのか納得出来るだろう。

またラストシーンから島におけるベルノーデュスの霊の意図が垣間見れる気がする。ベルノーデュスの母親は彼を産んだ時亡くなっている。だからベルノーデュスは写真でしか母親を知らないのだが、写真の顔は何処と無くカトリーンに似ている。ベルノーデュスの霊が何故ガルザーとリーフを死に追いやったのか。その理由を考えて見るのも面白い。

さていつものお勧め度だが北欧のサスペンス映画が好きな方には超お勧めだ。トリックを含めて真相が分かった時のカタルシスはかなり大きい。また親から子、子から親への愛情をサブテーマに盛り込んだドラマとして観ても奥深い作品だと思う。因みに霊が出て来るのに怖くないし焼却場跡の崩落シーン以外に流血シーンも無いのでそちらの方面は期待しない方が良い。