2019-07-08

ザ・ボルト 金庫強奪


2017年制作のアメリカ映画。銀行強盗劇を描いたクライムアクションかと思ったら意外にもコテコテの心霊ホラーだった。それなりにトリックや謎解きも用意されていて推理が好きな方なら楽しめる作品だ。

ストーリー
マイケルはヤバイ組織が絡んだ仕事の失敗で50万ドルの借金をしてしまう。彼は2人の姉ヴィーとリーアに銀行強盗の手助けを頼み、クレーマーとサイラスを加え5人でセンチュリオン信託銀行を襲う。人質は行員5人、警察官1人、客1人の計7人で全員が後ろ手に縛られ頭に布袋を被される。

早速出納係に金庫を開けさせるが中には7万ドルしか入っていなかった。唖然とする5人。互いに言い争いを始める彼らに向かって行員の1人エドが「手助けをする」と提案する。彼は自動警報装置を解除した後で「地下の金庫に600万ドルある」と言うのだ。半信半疑の5人だが他に道は無い。

クレーマーが地下に降りてかなり古い金庫を見つけ金庫破りの作業を始める。ドリルがあれば20分程で開くらしい。同時にマイケルは脱出ルートを確保するため、地下にある管(何の管か不明)にバーナーで穴を開ける作業を始めた。サイラスは人質を1階の金庫室に軟禁し監視している。

金庫を開けたクレーマーは布袋を被った複数の亡霊が廊下に立っているのに気付く。白い仮面を付けた亡霊も現れクレーマーを金庫室に引っ張り込んで押さえつけドリルの刃で目を突き刺した。そして1階の金庫室ではサイラスが血塗れの布袋を被った亡霊に取り囲まれ口にショットガンを突っ込まれる。

クレーマーの悲鳴を聞いたマイケルが地下を探索すると、自ら頭部にドリルを捩じ込んで自殺するクレーマーの姿を目の当たりにする。またサイラスは1階の金庫室から忽然と消えてしまうが、後にヴィーがショットガンで自分の頭部を吹き飛ばした彼の死体を地下の一室で発見する。

地下で何かが起きていると確信したリーアは出納係のスーザンに説明を求める。彼女は「1982年にこの銀行で強盗事件があり白い仮面を付けた凶悪犯が人質を全員惨殺したこと」「それ以来地下には何かが棲みついていること」「そして犯人は未だに捕まっていないこと」を告白した。

その間に地下の金庫でヴィーが600万ドルを発見し、何者かによる通報で警察に包囲された3人は脱出の決意を固める。マイケルは地下の各部屋を火炎瓶で焼き尽くしヴィーは先行で管を通って脱出。亡霊に囲まれたリーアはマイケルが囮になっている間に脱出、だがマイケルは命を落とす。

警察の事情聴取を受けた人質達は人質は皆で7人だったと主張するが、銀行内のどのカメラにも強盗に助け舟を出した男の姿が写っていない。スーザンは顔を見たが行員ではないと言い、布袋越しに声を聞いた他の行員は銀行の内情に詳しかったと言う。エドと名乗ったこの男の正体とは・・・。

レビュー
★ネタバレが含まれています。ご注意ください。
冒頭部分の強盗シーンを観ると素人が考えた杜撰なプランを実行しているのが良く分かる。普通金庫に金がどの程度あるか事前に情報入手するのが一番重要なポイントだろう。M・マン監督の「ヒート」でも村川透監督の「野獣死すべし」でもそうだった。それが破ってみたら7万ドルって。

そこでヴィーとリーアの姉妹が大喧嘩を始めるのだが、元々2人には死んだ母親の介護に絡んだ因縁があって全編を通してこの諍いが続く。そこに心優しい弟のマイケルが入り宥めて行くのだが、これじゃあマトモなプランも練れない筈だ。しかし、この設定は特に無くても良いように思えた。

さてストーリーを読むだけでコイツ怪しいと思うのはエドだろう。映像を観ても時々彼の頭をよぎるフラッシュバックが1982年の銀行強盗シーンなので、エドが過去の事件に深く関係しているのは間違い無い。彼は何故ヴィー達を地下金庫へ誘導したのか?。

実は本作のストーリーは謎が謎を呼ぶ不可解極まりない物なのだ。

ここで思いつく謎を列挙してみよう。
  • 何故行員の亡霊と一緒に白い仮面を付けた凶悪犯の霊が出てくるのか。
  • 白い仮面の男はどこで死んだのか。何故この銀行の地下にいるのか。
  • ヴィー以外の4人は亡霊を見ているのに彼女だけ見ていない。
  • 金庫内にある600万ドルを何故ヴィーだけが発見できたのか。
  • 白い仮面の男とエドとの関係は。
どれも難解なのだが敢えて推理してみる。
  • 白い仮面の男は何らかの方法で脱出に成功。その後死亡し亡霊となってこの銀行に戻って来る。この男、地縛霊ではなく浮遊霊か?。邪悪な霊なので霊力が強く自分が虐殺した行員達の霊を支配下に置き次の犠牲者が来るのを待っている。
  • ヴィーが銀行で優遇された理由は不明。まさか死んだ母親の霊が守ったなんてことは無いだろう。彼女は銀行では霊と無縁だったが最後に屋外で襲われる。襲ったのは白い仮面の男の亡霊で間違いない。浮遊霊なら自由に移動できるからだ。
  • エドは行員で人質の1人。恐らく最初の犠牲者だ。白い仮面の男がその霊力で惨殺シーンをフラッシュバックで見せエドを恐怖で操っている。
それにしても謎が多く観る者を悶々とさせる作品だ。実は前半過ぎた辺りで独特の違和感を感じたため、時間軸をずらし現在と過去を巧みに入れ替えている?と考えたのだがこれは深読みし過ぎた。確かに現在と過去を繋ぐ要素はあるが、それはカメラには写らないが目には見える人物エドだった。

もうお分かりだと思うがエドは1982年の事件で犠牲になった行員の1人なのだ。

エドはあの日4:55に休憩室でコーヒーを入れ強盗の侵入に気付いて通報している最中に射殺された。彼はあの日から毎日同じことを繰り返している。通報先は911ではなく霊界かも知れない。警察が今回たまたま無線傍受したのは何処かを漂う彼の声だった。

彼も哀れな亡霊達の仲間であり地下への案内人だったと解釈して良いと思う。

とにかく作品の雰囲気は悪くないし血塗れのズタ袋を被った亡霊は十分怖い。グロシーンもそれなりにあり、生きながら焼かれるなど酸鼻を極める惨殺場面も背筋が寒くなる。ただ、論理的解釈が難しい部分と説明自体がなく空想で補う部分が多いのは大きな欠点だろう。

さてこの作品のお勧め度だが正直一般受けはしないと思われるのでお勧め度は低くなる。映像や設定から得られる不気味さ、不可解さが気に入れば良いのだがこれは観る人の感性次第だ。もし「ラスト・シフト/最期の夜勤」あたりが好きな方なら本作も気に入る可能性大だと思う。