2015-11-01

イン・ハー・スキン


2009年製作のオーストラリア映画。1999年に実際に起きた少女失踪事件を題材にした正に衝撃の作品だ。

ストーリー
マイクとエリザベス夫婦には3人の娘がいるが15歳の長女・レイチェルがある日忽然と失踪してしまう。早速夫婦が警察に捜索を依頼したところ単なる家出だろうと取り合って貰えない。自分達でビラを配りあらゆる手を尽くして探したにも関わらず全く手掛かりが掴めなかった

一方、夫婦の向かいの家には母親、妹と一緒に暮らすキャロラインという少女がいた。彼女は学校でいじめに遭い家を出た父親から疎まれていると信じ込んで極度に精神状態が不安定になっている。自分の容姿にも激しいコンプレックスを持っている彼女は美しいレイチェルの姿を窓越しに複雑な思いで見つめていた。

レビュー
ここまでのストーリーでレイチェル失踪の真相をほとんどの人が予想できるはずだ。実際作品の前半部分は娘の失踪の謎を夫婦が解明しようとするサスペンス仕立てなのだが、中盤になるとキャロラインが主役に転じて話が進むのでレイチェル失踪の仕掛け人が彼女である事実がオープンに描かれる。

この作品はサイコ・サスペンスの衣を纏ってはいるものの内容は純然たる人間ドラマで、キャロラインの心の闇や父親との屈折した愛憎関係、マイクとエリザベス夫婦の娘への深い愛情を独特のタッチで描いたとんでもない傑作なのだ。

俳優陣はマイク役にガイ・ピアース、エリザベス役にミランダ・オットー、キャロラインの父親役にサム・ニールと言う実に贅沢な布陣となっている。しかし、この作品の主役は間違いなくキャロライン役のルース・ブラッドリーだ。彼女は外観的に少しポッチャリしているくらいで取り立てて不美人ではなくごく普通の女性。

注目すべきはその演技で、明らかに躁鬱症で感情の起伏が激しく自己嫌悪の情が炎の塊のように激しいもので観ていてとにかく圧倒されっ放しだった。これでは父親はこの娘の面倒を見る事に疲れ切るだろうと納得してしまう。特に興奮して父親の前で半裸になり「この醜い身体を見て!」と絶叫するシーンは胸が痛む前にドン引きしてしまった。

さて、レイチェルは果たしてどうなったのか?。実はキャロラインが言葉巧みに彼女を誘い出し自宅アパートに連れ込んでいたのだ。そして・・・これ以上は書けないがタイトルの「イン・ハー・スキン」が全てを物語っているので、ここはじっくり観て頂きたいと思う。

映像に関してはステディカムを多用したと思われる独特のふわふわした視点が特徴。他にもスローモーションを上手く使って幻想的な雰囲気を出している場面も印象的だ。特に特技のダンスを披露するレイチェルの蝶のような美しさの表現にはこだわりを感じた。

この作品は今年鑑賞したDVDで個人的評価では今のところベスト・ワンだ。独特の映像感覚と決して押し付けがましくならない家族愛の描写、オーストラリア映画の持ち味なのかナチュラルでありながら心に響きそして考えさせられる素晴らしい作品だ。