2016-11-27

スリーピング タイト 白肌の美女の異常な夜


2011年製作のスペイン映画。監督は「REC」「REC2」のジャウマ・バラゲロ。サブタイトルが陳腐だが内容は予想を遥かに超える素晴らしい作品だ。

ストーリー
バルセロナのアパートメントで管理人をしている中年男セサル。穏やかな口ぶりと親切な応対で住人から信頼されている彼には秘密の趣味があった。住人のクララに対して異常な執着があり合鍵を使用して毎夜彼女の部屋に忍び込んでいたのだ。

彼女が寝付くのを待って彼はベッドの下から這い出しクロロホルムを嗅がせ目覚めないようにしてから明け方まで彼女に寄り添って眠る。先に目覚めたセサルはクララの歯ブラシで歯を磨き痕跡を残さぬよう注意して管理人室に戻って行く。

ある夜いつもと同じようにベッド下に潜んでいるとクララが恋人と一緒に戻ってくる。慌てたセサルは誤ってクロロホルムを自分の顔に浴びてしまい意識朦朧のまま部屋から這い出そうとして失敗し浴室で気を失う。

翌朝目覚めたセサルは隙をみて部屋から逃げようとするがクララの恋人に見つかって問い詰められる。何とかその場を言い繕ってその日は事無きを得たが不信に思ったクララの恋人に後日厳しく追及されたセサルは誤って彼を殺害してしまう。

レビュー
最初セサルはクララに対する恋愛感情でストーカー行為をしていると思ったのだが、実は彼は「人の不幸を見たり感じたりすることが唯一の生き甲斐」という歪んだ心の人間だった。彼は自分が幸せになる方法はそれしかないと信じているので相当に屈折した自己愛の持ち主と言えるかも知れない。

セサルがターゲットに選んだクララは陽気でいつも笑いが絶えない快活な女性だ。セサルはそれが我慢ならず彼女から笑顔を奪うために様々な嫌がらせをする。美容液にアレルギーを起こさせる薬品を混入したり、ゴキブリの卵を彼女の部屋に仕込んで繁殖させゴキブリだらけにしたりする。

セサルの恐ろしさは思いつきで嫌がらせをするのではなくある目的に向かって着々と準備を進めるところにある。クララの恋人殺害は彼にとって予定外の出来事だったがそれさえも自分の目的へのプラス要素に変えてしまうのだ。一体セサルの最終目的は何なのか最後まで明らかにされず緊張感が続く。

そしてラストに全てが明らかにされた時クララの凄まじい絶望感は想像するだけで恐ろしく観ている人全てを圧倒してしまうだろう。クララが生涯背負う事になる不幸はセサルに幸せを与えそして彼を生かし続けるのだ。何という皮肉に満ちた結末だろうか。

セサル役はルイス・トサル。一度観たら顔を忘れられない個性派俳優だ。クララ役はマルタ・ストゥラ。白肌ではなく小麦色の肌をした魅力的な女優さんで美しくセクシーな肢体を披露してくれる。実生活ではルイス・トサルとマルタ・ストゥラは夫婦だ。

とにかくサスペンス映画として非常に緻密な脚本と次から次へと予想しない展開を畳み掛けてくるテンポの良さは素晴らしいの一言。ジャウマ・バラゲロ監督は「機械じかけの小児病棟」でも才能を発揮しているのでスペイン映画界では要注目の人物だと思う。