2019-05-25

ロスト・メモリー


2012年制作のドイツ映画。人間はある出来事で強烈なストレスを受けるとその時の記憶を封印するらしいが、この作品は幼少時の記憶が年月を経て蘇ることで起きる事件を描いたサスペンスの秀作だ。

ストーリー
ハンナは夫のヨハネス、7才の娘レアと3人暮らし。彼女の職業は医師だ。ある夜、ハンナの病院に睡眠薬を過剰摂取し意識を失った女性が運ばれて来た。患者の名前はクラリッサ。彼女は昔9才頃までそれぞれの両親と一緒にとある島の貸別荘へ毎年遊びに行っていた幼馴染だった。

回復したクラリッサの提案でハンナとレアの3人で20数年振りに島へ遊びに行くことになる。懐かしい貸別荘に着きハンナとクラリッサはアルバムを見ながら昔話に花を咲かせるが、アルバムにハンナの記憶にない少女が写っていた。

ハンナが誰かと聞くとクラリッサは覚えていないのが信じられないといった顔で、3人で良く一緒に遊んでいたマリアという島の娘だという。しかし、ハンナの記憶にマリアは全く存在しなかった。

そこで偶然知り合った島の漁師マーコスにマリアのことを尋ねると、彼女は魚屋の女主人ガブリエラの娘で小さい頃に失踪し行方不明だと教えてくれた。また貸別荘の管理人ティムはハンナ達が来たことを露骨に嫌がり、魚屋のガブリエラもハンナに対して何やら意味深な態度を取る。

島に来てからハンナの昔の記憶が断片的に蘇って来る。マリアとは親友だったこと、林の奥にある岩を積み上げた廃墟に入口があり、通路を進んだ一番奥の部屋でクラリッサ、マリアと3人で何かをしたこと。ハンナが自作した怪談話でクラリッサとマリアを怖がらせたこと。

次第にハンナにはマリアと思われる少女の姿が見えるようになる。別荘の地下室、林の入口や廃墟の前に彼女がいるのだ。少女に誘われるように廃墟の入口から中に入ったハンナは、通路の奥の部屋で床にある鉄扉を発見する。取手を引いて開けようとするが重くて無理だ。

その時彼女は扉の下に竪穴がありそこにマリアを落としたこと、彼女が死んだと思い恐ろしくなってクラリッサと一緒にその場を逃げ出したことを思い出したのだ。マリアは間違いなく今も亡霊となって彷徨っている。そして少女はレアの前にも姿を現し始めた。

ハンナは娘と共にマリアの亡霊に復讐されるのだろうか・・・。

レビュー
この作品にはかなり大胆なトリックが仕掛けられているのでネタバレしないようにレビューするのが難しい。初見の方には管理人と同じくあっと驚いて欲しい。つい余計なことを書きたくなる欲求を抑えてレビューしたいと思う。

ハンナはマリアと親友関係にあったがクラリッサと一緒に島に来るようになってからは疎遠になった。新しい友達ができると急にそれまでの親友を無視したりするのは子供にはありがちなことかも知れない。純粋であり同時に残酷なのが子供だろう。

悲劇はハンナを慕うマリアが残酷な少女達の虐めを甘んじて受けたために起こった。間口が約1m四方、深さが5mはある竪穴の底にロープで降ろされたマリアは日没まで放置された。戻って来たハンナとクラリッサが引き上げようとしたがロープが切れてマリアは落下し気を失う。

恐ろしくなった2人はマリアを放置して別荘に逃げ帰り誰にも言わないと約束して島を去った。これが20数年前に起きた事件の一部だ。しかし、ハンナとクラリッサが忘れるか仕方なかったと納得している間にもさらなる悲劇は続いていたのだ。時間と共に熟成される人の恨み・復讐心は恐ろしい。

また魚屋の女主人カブリエラ、漁師のマーコス、管理人のティムは重要な登場人物だ。彼らの言動は廃墟で起きた事件の顛末を炙り出し新たな復讐の口火にもなっている。更にある人物の言動に何となく違和感を感じたり、さりげない小物が重大な意味を持っていたりと伏線の張り方も心憎い。

ここでハンナの怪談を紹介してみたい。「遙か遠い昔、この島に口がきけず年を取らない少女がいた。気味悪がった村人達は廃墟の竪穴に閉じ込めたが少女は死なず怒りと共に成長した。復讐を心に決め誰かに開放される日を待った。その人は身代わりにされる・・・次の身代わりが来るまで。」

実はこの怪談がハンナ自身をミスリードし観ている我々をもミスリードするトリックの一部なのだ。そして結末が明らかになり復讐者の正体と緻密な計画に驚嘆しながらもまだ終わりは見えない。復讐は連鎖する。そんな予感を抱きつつ深い余韻に浸れる秀作サスペンスだった。